少子化議論なぜか欠ける「婚姻減・少母化」の視点 「20代で子のいる家族」が2000年境に減った背景

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2014年ごろからやっと額面の給料が上がりだしたと思ったら、今度は社会保障費などの天引きが増え、消費税も上がり、いわゆる可処分所得は1996年時点と比較しても下がるという現象が2021年段階でも続いています。経済的不安定の中で結婚に踏み出せないのは仕方ないことでしょう。

というと、すぐおじさんたちから「経済的に恵まれていないからこそ結婚する方がいいのだ。一人口は食えねど二人口なら食える」とか「夫婦共稼ぎでやればいいじゃないか」とかの声があがりますが、生活基礎調査から20代の可処分所得の中央値を計算すると、2021年でたったの272万円しかありません。

半分以上が、300万円未満です。1996年の20代の可処分所得である281万円にすら到達できていません。若者からすれば「これでどうしろというのだ」といいたくもなるでしょう。

結婚はやはりお金が重要

恋愛はお金がなくてもできますが結婚は別です。それを裏付ける調査結果があります。2018年内閣府「少子化社会対策に関する意識調査」では、20~40代の未婚男女を対象に、現在恋人がいる男女の自分の年収とパートナーの年収を聞いている項目があります。

それに基づいて、独自に中央値を計算すると、20~40代未婚で恋人ありの男性の年収中央値は285万円、同じく恋人ありの未婚女性は244万円です。それが、20~40代で3年以内に結婚した子無し既婚男女で見ると、男性の中央値は482万円、女性は156万円となります。恋愛はお金ではないが、結婚はやはりお金が重要なのです。

子育て支援も結構ですし、重要なことは否定しませんが、そもそもその前段階として、若い男女が家族を作れない状況に追い込まれていることはもっと深刻にとらえるべきでしょう。

さらに深刻なのは、こうした全国の中央値とは無縁な一部の恵まれた家の子女たちがいて、そうした若者は潤沢な親の経済力に支えられ、奨学金なしで大学に通い、留学までさせてもらえて、帰国子女として大企業や外資系企業に就職し、20代のうちに全国の中央値の2~3倍の年収を手に入れます。

出会いも結婚も経済的同類婚が進行しています。同じくらいの年収同士の男女が出会い、同じような価値観だと気が合い、結婚していきます。恵まれた家の子は高い年収を手にいれ、高い年収同時で共稼ぎ夫婦となり、経済的問題で結婚も出会いもない者との格差がより際立ち始めているのも現実としてあります。

ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックは、すでに1990年代において従来の伝統的な共同体であった家族は、「すでに死んでいるが、依然として形だけは生き残っているゾンビカテゴリー(死に体カテゴリー)」になったとまで表現しました。しかし、家族がゾンビとなる前に、もはや経済的に苦境に立つ若者たち自身が生きていけない世界になってやしないでしょうか?

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荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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