冷凍母乳が売れる!期待と不安の製品開発 低体重児の栄養補給や腸疾患に効果あり?

同社がつくる製品は、母乳活用の始まりでしかない。長い年月をかけて進化してきた母乳は、最適な栄養であるとともに新生児を感染症から守るもので、人間の治療に活用できる可能性に満ちている。その可能性は赤ちゃんだけでなく大人にも広がり、たとえばクローン病として知られる腸疾患などの腸の病気や、感染症などの治療に活用できる可能性がある。
「母乳はまだまだ可能性を秘めている」と話すのはブルース・ジャーマンだ。彼はカリフォルニア大学デービス校の「健康のための食品研究所」ディレクターであり、エボルブ・バイオシステムズという小さな会社の会長でもある。同社は母乳に関する新たな発見を基に、栄養製品の開発を行っている。
非営利母乳バンクに対する心配の声も
しかし、母乳の商業化に不安を感じる人は多い。たとえば、企業が母乳の余剰分の大半を獲得して一般の乳児には高価すぎる製品を作り、非営利の母乳バンクが入手できる母乳が減ってしまうのではないか、との懸念がある。
「余剰となっている母乳が国内にどのくらいあり、誰がそれを手に入れるかという競争になっている」。こう話すのは、テキサス州オースティンの非営利団体、マザーズ・ミルクバンクのエグゼクティブ・ディレクター、キム・アップデグローブだ。「非営利の母乳バンクは、長年にわたって重病の赤ちゃんに母乳を提供してきた。提供する基準は医療的なニーズであり、保険による支払いや金銭的なものではない」。
さらに、母乳を提供する女性にはおカネを支払うべきか、あるいは無料で寄付してもらうべきかという点も激しく議論されている。支払いに反対する人々は母乳が商売になってしまうことを心配し、女性たちが母乳の量を危険な形で増やそうとするかもしれないと言う。たとえば、母乳に害となる健康上の問題を隠す、量を増やすために牛乳を混ぜる、あるいは、たくさん売るために自分の子どもに飲ませる量を減らすなどの可能性が心配される。
注目される母乳の複合糖質
エボルブ・バイオシステムズが最初に母乳に関心を持ったのは、母乳に複合糖質が豊富に含まれているからだ。最近の研究によると、それらの糖質は健康にとって重要な腸内細菌の栄養となることが示されている。
グリコシンやジェヌワイン・バイオテクノロジーといった企業、およびネスレと協力関係にあるグリコムなどは、母乳の複合糖質を合成して、健康な「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」を育てる製品を作ろうとしている。 前出のプロラクタ・バイオサイエンスとその競合企業であるメドラック・ラボラトリーズによると、両社は母乳を全米から集められるため、母乳から複合糖質を抽出することが可能になるだろうと言う。