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ライフ #コーヒーが冷めないうちに

交際3年目の彼と別れた28歳彼女が戻りたい過去 小説「コーヒーが冷めないうちに」第1話全公開(2)

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計は生まれつき心臓が弱く、入退院をくり返していた。しかし、生来人なつこく、くったくのない性格の計は、どんなに体調が悪くとも笑顔を絶やしたことがない。平井は、そんな計の性格をよく知っていたので、あらためて流に確認したのである。

流はやっと見つけたキッチンペーパーで手を拭きながら、

「平井さんとこは大丈夫なんすか?」

と、話題を変えた。何が大丈夫なのか平井はとっさにわからなかったのだろう、目を丸くして、

「なにが?」

と、聞き返した。

「妹さん、何度か来てますよね?」

「……ああ、うん」

平井は意味なく店内を見回しながら曖昧に返事をした。

「ご実家は旅館でしたっけ?」

「まーね」

流は詳しくは知らなかったが、平井が家出をした結果、妹が旅館を継いだという話だけは聞いていた。

「今さら帰れないわよ」

「妹さん、一人じゃ大変なんじゃ……」

「大丈夫、大丈夫、うちの妹しっかりしてるから」

「でも……」

「今さら帰れないわよ」

吐き捨てるように言うと、ヒョウ柄のポーチから辞書ほどもある大きな財布を取り出し、ジャラジャラと小銭を探りはじめた。

『コーヒーが冷めないうちに』(サンマーク出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

「どうしてですか?」

「帰ったって、なにもできないし?」

平井はおどけ顔で小首を傾げながら答えた。流は「でも」と何か言いかけたが、平井は、

「ごちそうさま!」

と、流の言葉をさえぎり、コーヒー代をカウンターの上に残して逃げるように出て行ってしまった。

カランコロン。

(12月31日配信の次回に続く)

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