ヤングケアラーと名乗らない20代息子の複雑心中 母親が病に倒れたとき中1だった息子の現在

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家族のことは「やって当たり前」という価値観

けいたさん:ヤングケアラーでまとめられると、僕自身、ちょっと『あれ?』って思うところがあって、それはなんでかっていうと、僕自身は『して当たり前』ってやっぱ思ってきてたんで、その、してきたからこそ、今、自分に活きてる部分もありますし。
「ヤングケアラーです」って自分から名乗ってしまうと、例えばお母さんを責めてる。さっきも言ったんですけど、お母さんを責めてることにもつながりますし、おばあちゃんを責めてることになりますし、「誰々がおるから、今、自分のしたいことができひん」とかじゃなくて、「家族のことは家族内でやろうな」っていうのは昔からお姉ちゃんと話してて、ヘルパーさんが入ってくれてるからってヘルパーさんに任せるとかじゃなくて、できることは『家族やし、お母さんのことやからやらないといけない』って思ってたんで。

家族のことは「やって当たり前」だと語るけいたさんは「ヤングケアラー」という言葉に違和感を持つ。

「『ヤングケアラーです』って自分から名乗ってしまう」ことは、「自分のしたいことができひん」とエゴイズムで不満を述べているかのように感じるようだ(※注4)。けいたさんはエゴイズムではないところで「自分」をつくろうとしている。「して当たり前」としてのケアが「自分に活きてる」。このことが「やって当たり前」という家族を重視する価値観を通しての「自分」づくりになる。

「できることは『〔父や兄を含む〕家族やし、お母さんのことやからやらないといけない』」という家族の結束に私は驚いた(この結束は、かつて家族が2つに分かれて会話がなかったことと対照的であるが、けいたさんの家族においてはこの2点が同居している)。「家族内でやろう」というように家族単位で思考されている。個人主義とは異なる価値観かもしれない。

打ち消された「大変さ」

村上:ちょっと同じ繰り返しになるかもしれないんですけど、今まで一番大変だったこと、苦労したことと、よかったこと。
けいたさん:一番大変やった。もう僕自身、やっぱり『して当たり前』って思ってたんで、『大変』って思うことってなくて、やってきたからこそ、今、できてるから、自分で料理を作れたりとか、洗濯も回せたりとか、そういうのをお姉ちゃんが教えてくれたりとかしてたんで、今の自分に活きてることしか多分ないんで、『大変やったな』って、そのときは思うかもしれないですけど、今、振り返ってみて何が大変やったかっていうと、これっていうのがなくて。
やっぱり会話ができひんのは大変じゃないですけど、そこに対しての申し訳なさとか、最初に気づいてあげられへんかったっていうのが出てくるんで、『大変』ってなったら、多分、自分を『大変やったな』って思ったら、多分、自分のことを責めてしまうんで。昔から、『自分でやって当たり前』って思うしかないじゃないですけど、そう思ってたら自分も気が楽というか。
村上:そういうことなんだ。なんで聞いたかっていうと、大変っていう言葉が全然出てこなかったから。
けいたさん:別に僕自身、これが大変やったっていうのはほんまに思わないし、おばあちゃんちに行くのにも大変とか思わないし、特にこれが……。
村上:それはすごいなと思って。
けいたさん:……しんどかったなっていうのはないです。
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