「孤独は健康に悪く、寿命を縮める」
「ひとりのほうが生存戦略として有利」
孤独をめぐる議論はついつい二極化しがちだ。理由は簡単で、それぞれが自分の置かれた境遇を正当化できる考え方に飛び付き、当座の安心を得たいからにほかならない。既婚者や友人が多い人は前者に共鳴しがちで、未婚者や友人がいない人は後者に共鳴しがちといえばわかりやすいだろう。
家族に囲まれていても孤独を感じる人も
だが、現実はそう単純ではない。家族に囲まれていても強い孤独を感じている人たちもいれば、友人未満の「弱いつながり」が少しあるだけで孤独をまったく感じない人たちもいる。これは家族構成や社会的地位といった表面的な属性を問わず、本人にとって最適な人間関係が築けているかどうかが重要であることを示している。
つまり、ここでは「関係のマネジメント」と評すべき個人の能力が焦点になっているのだ。さらに近年は、孤独を本人のせいにする「自己責任論」の風潮と相まって、社会課題として認識しづらい状況を作り出してしまっている面がある。
例えば、2018年に英誌エコノミストなどが日米英3カ国を対象に行った「孤独」に関する意識調査では、「孤独は自己責任」と考える人が日本で44%に上り、アメリカの23%、イギリスの11%に比べて多いことが明らかになった。そのため、とりわけ「望まない孤独」「不本意な孤独」を抱えた人々は、より過酷さを増す時代に向き合わざるをえなくなっているといえる。
人を健康で幸福にする要因について長期間追跡した「ハーバード成人発達研究」という有名な研究がある。研究責任者で精神科医のロバート・ウォールディンガーは、「私たちを健康に幸福にするのは、いい人間関係に尽きる」と主張した。
加えて「ここで重大な事は、友人の数だけがものをいうのではなく、生涯を共にする相手の有無でもない」と述べ、「重要なのは身近な人たちとの関係の質」と結論付けたのである(ロバート・ウォールディンガー『人生を幸せにするのは何? 最も長期に渡る幸福の研究から』TED)。同居の家族やパートナーの有無、友人の数は決定的な要素ではなく、「関係の質」こそが大切というわけだ。
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