なぜ日本人の「色彩感覚」は世界で賞賛されるのか 「春の色」ひとつとってもこんなに多彩

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鮮やかな色のオンパレードでありながら、白・黒をうまく使うことで和の雰囲気にまとめた配色。花札の色に着想を得て9つの色を制作したが、どの色とどの色を組み合わせても配色として美しくまとまるよう、多少のアレンジを加えている(出所:『配色アイデア手帖 日本の美しい色と言葉』)

江戸時代に生まれた多くの色

かつて、モネやゴッホを驚嘆させた浮世絵は、江戸時代に生まれたものだ。江戸時代と言えば、度重なる奢侈禁止令(しゃしきんしれい)が発令され、浮世絵に見られる豊かな色とは対照的に、庶民のファッションは茶色・鼠色・藍色に限定されていた。

『配色アイデア手帖 日本の美しい色と言葉』(SBクリエイティブ)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

彼らはそれらの地味色を「粋(いき)な色」と位置づけ、すさまじい勢いで、さまざまなカラーバリエーションを生み出した。俗に「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」と呼ばれるが、実際には、これよりもはるかに多くの色が誕生した(色彩学者・長崎盛輝の研究によれば、江戸時代に流行した茶色は153種、鼠色についても100種を超える色名が存在したとされる)。

今まで何となく知っていたかもしれないこの話は、日本人の「色に対するこだわり」を象徴するエピソードであると筆者は考える。日本に生まれ育った人々は、多かれ少なかれ、季節と色の連動、繊細な色への愛着、色に対する自分なりのこだわりを持っているのではないだろうか。2023年は「日本の色」に意識を向けてみると、公私共に大きな収穫があるかもしれない。

桜井 輝子 東京カラーズ株式会社代表取締役

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さくらい てるこ / Teruko Sakurai

1967年生まれ、東京都出身。東京カラーズ株式会社代表取締役。日本色彩学会正会員、色彩検定協会認定色彩講師、インテリアコーディネーター。人に役立つ色彩提案、企業研修やカラーコンサルティング、大学・専門学校での色彩学講師、色彩教材の企画制作など、色にまつわるさまざまな分野で活躍。2014年に日本人として初めてスウェーデン国家規格ナチュラルカラーシステム(NCS)の認定講師資格を取得し、普及に努めている。色彩や配色に関する著書・監修書はこれまでに23冊を数え、中でも『配色アイデア手帖』シリーズ(SBクリエイティブ)は、累計39万部を超える圧倒的な人気を誇り、全世界で翻訳され、親しまれている。

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