工事車両暴走で死者「インドネシア高速鉄道」の闇 早期開業圧力のしわ寄せ?線路敷設機材が大破
車両基地に戻るまで機関士の交代は基本的にないため、事故時に乗務していたのは同日朝に筆者が目撃した荒っぽい運転の機関士と同じだったであろう。もちろん、車両に何らかのトラブルが発生していた可能性もあるし、下り勾配を利用して、故意に無人で機関車を暴走させたということもあり得なくもない。
一点だけ不可解なのは、機関士が中国人だったということである。おそらく中国国鉄から出向しているか、あるいはそのOBであろう。作業現場には現場監督以外にも、高速鉄道プロジェクトコンソーシアム企業の中国人作業者が従事している。車両の運行に関わる部分はほぼ中国人が担当しており、手旗による誘導も行われている。
この点が前述のLRTジャボデベックの衝突事故とは大きく異なり(2021年11月14日付記事「試走で衝突、インドネシア『国産LRT』が抱える問題」参照)、少なくともインドネシア側よりも安全意識のある中で作業は行われている。TMLにも中国人作業者が乗車しており、スピードが速すぎれば、無線で注意を促すこともできただろう。なぜ減速できなかったのか原因究明が課題となる。
「開業時期厳守」で労働者にしわ寄せ?
結果的にTMLは大破し、線路敷設工事は一時的にストップせざるを得ない状況に追い込まれた。2023年6月の「ソフト開業」に向けて一気に工事が進捗した矢先、開業がまたしても遠ざかってしまった。もっとも、中国は同型の機材を国内に多数保有しているはずで、近いうちに代わりの機材が手配されるのだろうが、最低1~2カ月の作業停止は免れない。KCIC(インドネシア中国高速鉄道)は開業予定に影響はないとするものの、スケジュール通りの開業は相当に困難だ。
また、これは明らかに中国側の落ち度で発生した事故である。工事遅延が発生した場合、インドネシア政府がどう責任を追及するかが今後の焦点となるだろう。今回の事故は、中国政府が推し進める「一帯一路」政策にも泥を塗ることになる。
高速鉄道の建設は、当初の約60.7億ドル(約8336億円)から約79億ドル(約1兆850億円)に膨れた総工費の穴埋め(約21.4兆ルピア=約1880億円)、さらにプロジェクトコンソーシアムのインドネシア側からの出資額不足(約4.3兆ルピア=約378億円)問題が根本的に解決されない中で着々と進み続けている。そのしわ寄せが現場の労働者に及んでいるということはなかろうか。機関士はなぜそんなにもスピードを上げたのか。単に荒い性格だったのか、車両トラブルだったのか、それとも故意にやったのか――。事故によって、高速鉄道プロジェクトの「パンドラの箱」が開かれようとしている。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら