工事車両暴走で死者「インドネシア高速鉄道」の闇 早期開業圧力のしわ寄せ?線路敷設機材が大破

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ジャカルタ―バンドン高速鉄道の建設は、11月にバリ島で開催されたG20(金融・世界経済に関する首脳会合)で実施した公開試運転の後も着実に進んでおり、同月下旬にバンドン側の始発駅テガルアール駅から約39km地点にある1駅目のパダララン駅まで線路の敷設が進んだ。その後、同駅には仮設の分岐器が設置され、テガルアール駅との間で工事列車の複線運転が可能になった。また、そのまま下り線に当たる線路(インドネシア国鉄と同じ右側通行と仮定した場合)の敷設が進められた。

下り線の敷設はパダラランからジャカルタ方面に向かって約7km先の地点まで1日当たり1~1.5kmずつ進み、12月14日からは上り線の敷設工事に切り替わった。事故当日の朝は、ちょうどこの約7km地点までの上り線敷設が完了する日だった。

インドネシア高速鉄道事故当日の工事現場
事故当日朝のレール終端部分。橋梁区間を越え、カーブした先の掘割区間までがこの日の敷設区間だった=2022年12月18日(筆者撮影)

事故直前に作業の手順が変更に

同日の朝も、それまでの工事と同様に2両のDF4B型が38両編成のレール輸送貨車を推進運転し、テガルアール車両基地からレール敷設現場に到着した。ここで、レールの終端部分に停車しているTMLと連結し、レールと枕木の敷設を一気に行う。この日は9時半頃から作業がスタート。1km分の上り線レールを敷設し、12時過ぎに作業は終了した。

事故直前のDF4B-7553号機
「暴走機関車」となってしまったDF4B-7553号機。重連推進運転で作業現場に向かう事故当日朝の姿=2022年12月18日(筆者撮影)
レール輸送貨車が連結された状態の連続軌道敷設機材
レール輸送貨車が連結された状態の連続軌道敷設機材(TML)とレール先端部分=2022年12月17日(筆者撮影)

通常は当日の作業が終了すると、機関車とレール輸送貨車は車両基地へ戻り、翌日の朝に再び現場へやってきて作業を再開するという流れを繰り返す。ただ、この日は前述の通り、パダラランから約7km地点まで上り線の敷設が完了して上下線の敷設距離が揃ったため、翌日からは再び下り線の線路延伸を行うことになっていた。そのため、TMLを上り線から下り線へと移動させる必要があった。

この場合、従来は機関車とレール輸送貨車の編成にTMLを連結したまま車両基地へ戻り、翌朝にこの編成を下り線の敷設現場へ運んでいた。だが、パダララン駅に分岐器が設置されたことでこの手順が変わり、TMLは車両基地まで回送せずに同駅で切り離し、その日の午後に翌朝の作業地点まで移動する形となった。

事故が発生したのはこの移動の際である。当日は、12月13日に手順が変更になってから2度目の作業だった。

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