60歳で司法試験に「一発合格」元トヨタ社員の奮闘 40代の終わり頃から「人生二度生き」を意識

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法科大学院に入学し、弁護士を目指すという目標を見つけてからは、どうすれば実現可能かを考え、多くの人に意見を聞いた。早期退職して法科大学院に集中する道もあったが、経済的な安定を考えると得策ではないと判断。

自動車総連会長退任後の身の振り方を組合に相談し、仕事と勉強が両立しやすいポストを用意してもらった。そして大学は夜間の受講だけで卒業可能な名城大学の法科大学院を受験、2008年に無事に合格を果たした。

しかし自動車総連の会長を退任できるのは9月で、4月入学が叶わなかった。

「何十年ぶりに大学に通うのに9月から遅れて入り、授業に出るのも夜だけ。さらに私は56歳で、文句なしの最高齢です。授業では先生が一人一人順番にあてていくのですが、まったく答えられなくてプライドはズタズタ。結局、法律を理解できるレベルになるまで1年以上かかりました。最初のころは相談できる仲間もいなくて、帰宅後はつらい気持ちを酒でごまかしながら勉強していました」

絶対的に足りない学習量を補うため、移動時間や休憩時間も寸暇を惜しんで勉強した。しばらくすると若くて優秀な友達ができ、一緒に勉強する機会に恵まれた。「自分の財産は人的ネットワーク」だと考え、迷い、不安なときは、あらゆるツテを頼ってアドバイスを求めた。工夫できることは何でもやった。

「自分が納得できる戦いを最後までやり遂げたい」

それでも立ちはだかる壁は高く、合格できそうな手ごたえはつかめない。さらに法科大学院修了者の合格率は2006年こそ5割に迫る勢いだったが、2010年には約25%にまで減っていた。

合格率が5割なら勝算もあるだろうと見込んでいたのに、希望の灯りが消えていくようだった。「そもそも無謀な挑戦で、無駄な努力をしているだけではないか」「挑戦しなくても、十分に充実した人生は送れるのではないか」――。

しかし、ここでやめてしまっては志半ばで、夢をあきらめることになる。現役時代に抱いた悔しさや虚しさを、新しい挑戦で晴らそうと自ら選んだ道だ。「結果はどうあれ、自分が納得できる戦いを最後までやり遂げたい」。切なる願いが、負けそうになる心を奮い立たせてくれた。

在職中、いつもこのリュックを背負って単語帳や教科書を読みながら歩いているので仕事先の人などから、「まるで二宮金次郎」と言われた(写真:加藤裕治さん提供)

加齢とともに記憶力は衰え、物忘れが増えると思っている人は多い。しかし加藤さんは若い頃、「トヨタ中興の祖」と呼ばれた豊田英二氏が新入社員に向けた講演で、年をとっても頭の使い方を工夫すれば記憶力は衰えない、などと話していたのを印象深く覚えていた。

その言葉通り、加藤さんの場合は30歳ごろから始めたランニングを毎朝、欠かさず続け、司法試験の勉強の最中には走りながら憲法の条文を暗誦するなど“脳の筋トレ”を実践しているうち、脳がどんどん活性化されていくのを感じた。

学習ノートの作成、暗記カードの活用など地道な積み重ねの結果、3年目には若者にも負けない知力が付いてきたと実感。模擬試験を解くスピードも上がり、ようやく手応えを感じられるようになっていった。

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