「ホテル日帰り50万円」で客が納得する提案方法 高いか安いかの価値判断は買い手が決める

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前述の話を、私の知り合いで、結婚記念日で使ったホテルでかつてトップセールスだった女性(その女性が同ホテルで出した婚礼の年間販売記録はいまだに破られていません)に話したところ、彼女は、「そんなことがあったんですか? それはひどいですね。私だったら田尻さんに50万円以上使ってもらっていますよ」と言うのです。

50万円といえば、16万円の3倍以上です。「どうやって私に50万円以上使わせるんですか?」と聞くと、彼女はこう答えました。

「田尻さん、10年間でどれだけ奥さんに苦労させたんですか? 1年ごとにどんなことがあったのか、全部私に詳しく教えてください。そして、どんなお祝いをするかを一緒に相談しましょう。例えば、部屋一面に花を飾って奥さんを驚かせるとか。なぜかホテルのスタッフみんながすれ違うたびにお祝いしてくれるとか。

そんなサプライズ、プチ結婚式をホテルのスタッフ一丸となって応援させてもらいます。そしてその日が、これから田尻さんご家族がまた10年、そしてずーっと幸せに暮らしていけるきっかけになったと言ってもらえるような日にします。って言ったらどうですか?」

私は、思わず「ああ、それなら50万円使うかも!」と答えてしまいました。彼女の提案は、高いか安いかを勝手に決めることなく、提供サービスの価値を私に決めさせてくれるものでした。しかも、お客様である私が心の中で期待している「こんな価値あるサービスにだったら、たとえその金額でも支払うなあ」という思いに十分応えてくれるものだったのです。

先ほどのケースでは、価値を、買い手であるお客様ではなく、売り手であるホテルが決めてしまっているのです。これは、ホテルというサービス業において、根本的な部分で大いなる失敗と言わざるをえません。

私を担当してくれたスタッフの発言は悪気があってのものでないことは、私も重々承知しています。おそらく良心から「高いのですが……」と言ってくれたのかもしれません。

売り手と買い手の価値判断に隔たり

ですが、価値を売り手側が勝手に判断するような言動はしてはいけないのです。価値はお客様が判断するのです。私の望みは、妻に10年間の感謝を伝えることでした。結果として高額なお金を払ったとしても、です。

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しかし私に対応したスタッフは、おそらく、提供するサービスの価値を、時間単価や料理の質などの単なるモノやコトと、金額の比較で捉えてしまっていたのではないかと思います。でなければお客様に対して「このサービスは高くなっておりまして」という言葉が出てくるはずがありません。サービス提供者側が決める価値は、売り手の勝手な考えであり、本当の価値ではありません。

このホテルの事例のように、売り手側が勝手に考える価値と、お客様側が実現してほしいと思っている価値には、大きな隔たりがよくあります。その隔たりが、付加価値創出において重大な問題になってきます。隔たりがある状態、つまりそもそも価値が何たるかを理解できていないと、付加価値をつくり出せないからです。

繰り返しになりますが、あくまでも、価値を感じる主体はお客様であること。お客様が、価値があるかないかを決めるのだという基本中の基本を、しっかりと覚えておいてください。

田尻 望 株式会社カクシン 代表取締役 CEO

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たじり のぞむ / Nozomu Tajiri

京都市出身。大阪大学基礎工学部情報科学科卒業後、キーエンスでコンサルティングエンジニアとして重要顧客を担当。また販売促進技術、海外販売促進技術に従事。その後、研修会社の立ち上げに参画し、独立。社会変化に適応した企業の長期的発展を目指す。著書に『構造が成果を創る~価値を構築するストラクチャリング思考と手法』(中央経済社)、『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)

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