東大と京大、数学入試に見た「求める学生」の違い 総合力の東大、未熟でも自己表現を求める京大

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京大としては、一つひとつの問題に対する「分析力と俯瞰力」、そして今までに学習してきた数学的な定理のもつ意味を自分なりに解釈し、そういった内容を「活用し創造する力」を求めているのでしょう。

では、京大の過去の入試で出題された、数学の問題を紹介します。

(2018年度理系第6問・文系第4問/出所:『2023年度用 鉄緑会京大数学問題集 資料・問題篇/解答篇 2013-2022』)

京大らしい抽象的な問題です。図形自体はシンプルで、ベクトル・座標など自由に道具は選べます。ただ、自分の選んだ道具に対して、結論の示し方をきちんと選ばないと、何を示していいかさえわからなくなる問題です。

東京大学と京都大学の違い

2大学の入試数学の問題を並べて見てきました。数学1科目だけで各大学の求めている学生像を語るのは非常に乱暴な気もしますが、折角の機会なので、入試数学から見る東大・京大の求める学生像を考えてみたいと思います。

まず、気になるのはどちらの大学も「総合的な数学力」という言葉を挙げていることです。ただ、この2つは決定的に違うように思います。

東大の「総合的な数学力」とは、計算力や論理力、またそれらをどのようにバランスよく点数に結び付けるか、「時間内に点数をなるべく多くとる」という問題に対する問題解決の総合力のように感じます。また、今までにない斬新な発想を必要とする問題を出題し、誘導をつけることで、その意図を読み取れるかなど問題を見た瞬間にその問題の誘導の本質をきちんとつかむ直観力なども見られています。

実際、東大の入試問題を時間内に満点を取り切るのはかなり難しく、入試の開示等を見てもおそらく数学が満点である学生はほぼいないのではないでしょうか。鉄緑会で自分の生徒を見ていても、満点を取ったという学生はほぼ見ません。限られた時間内で、自分の解けるであろう問題を確実に正答し、最大限の点数を取れるよう戦略を練っておく必要があります。そういう意味でも総合的に問題(この場合の問題とは、数学の問題ではなく、なるべく多くの点数を取る、という問題)を解決する力を見ているようにすら思います。

一方、京大については、未熟でもいい、自分の考えをどれだけ正確に相手に伝えられるか、時間いっぱい考えてそれを表現してほしい、という意図があるように思います。解答用紙もどこに記載しているかさえ書いていれば、その問題の部分に限らず計算余白に続きを書くことも許されています。解く道筋を固定してしまわないように、誘導を減らし、自分なりに、それが遠回りでも構わないから自由に表現できるように出題されています。

また、自分の生徒の結果を見ていても、年度にもよりますが、満点、またはそれに準ずる点数を取る生徒が一定数います。たとえ下手くそな方法だとしても論理さえ通っていれば一定の点数を与えてくれるということでしょう。

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