日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ

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サービスの質を考慮して調整した労働生産性の日米比較を行った研究によると、調整後の日本の労働生産性の水準は、調整前のものよりも高くなっています。これは、アメリカよりも日本のほうがサービスの質が高いとするアンケートの回答結果と整合的です。

しかし、質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです。

日本の労働生産性が低迷しているワケ

現在まで、日本の労働生産性はどのように変化してきたのでしょうか? 下の表は1970年以降、およそ10年ごとの労働生産性の変化率の動向を示したものです(出所:深尾京司、牧野達治「賃金長期停滞の背景(上) 製造業・公的部門の低迷響く」日本経済新聞、経済教室(2021年12月6日))。日本の労働生産性の上昇率は、長期的に低下傾向にあることがわかります。

1970年代や80年代の労働生産性の上昇率は約45〜51%と非常に高いものでしたが、90年代には約21%、2000年代は約12%に低下しています。こうした労働生産性上昇の減速が賃金成長率の低迷の主要因です。

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ではなぜ、日本の労働生産性上昇率は低下したのでしょうか? この問いに答えるためには、労働生産性がどのように決まるのかを考える必要があります。労働生産性は、労働成果の指標である付加価値を労働投入量で割ったものとして定義されます。つまり、次のように表せます。

労働生産性=「付加価値÷労働投入量」

ここから、労働生産性が低くなる理由としては、付加価値が小さいこと、あるいは労働投入量が多い、つまり過剰労働になっていること、あるいはその両方が考えられます。逆に、労働生産性を高めるには付加価値を増やすか、労働投入量を節約するか、あるいはその両方が必要になるということです。

付加価値を生み出すには、機械や設備などの「資本」や、それを使いこなす「労働」といった生産要素が必要となります。また、生産技術や経営効率、組織運営効率なども付加価値に影響すると考えられます。これら生産要素以外で付加価値に寄与するものを「全要素生産性(TFP)」と言います。

生産要素のひとつである「労働」は、単にどれだけ働いたかだけではなく、労働者の持つスキルや経験など「労働の質」にも左右されます。つまり、労働は労働投入量(就業者数×労働時間)と労働の質の2つに分けて考えることができます。労働生産性は付加価値を労働投入量で割ったものですから、労働生産性は、労働の質、資本装備率(労働力当たりの資本)、そしてTFPの3つにより決まることがわかります。

先の表では、労働生産性の上昇率を、労働の質上昇、資本装備率上昇、そしてTFP上昇に要因分解しています。これをみると、1990年までの労働生産性の高い伸びは、資本装備率やTFPの上昇に大きく支えられていたことがわかります。

しかし、その後、1990年代にはTFPが大幅に減速し、それに伴い労働生産性の上昇も減速します。2000年以降、TFPの上昇は若干回復しますが、労働の質の低下と資本蓄積の減速により、労働生産性は停滞しています。ここからわかることは、この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです。

宮本 弘曉 東京都立大学教授

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みやもと・ひろあき

米ウィスコンシン大学マディソン校で博士号(経済学)取得。国際大学学長特別補佐・教授、東京大学特任准教授、国際通貨基金エコノミストなどを経て現職。現在、高知工科大学客員教授。専門は労働経済学・マクロ経済学、日本経済論。

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