当時の青学陸上部は、強化を始めたばかりで選手の意識もバラバラでした。強化指定の1期生が入学してくる一方で、2年生以上の上級生にはレベルの高い選手もいれば、一般受験で入った同好会レベルの選手もいる。全員が箱根駅伝を目指すという意気込みで入部してきたわけではありませんでした。
要は、それまではOB会から選出されたボランティアの監督に指導を受ける一般的な部活であったものが、大学スポーツとしてトップレベルを目指す集団になれといきなり言われた。上級生にとっては「話が違う」となるのは仕方ない部分もあります。
スカウトの際に記録だけを重視してしまった
私自身の戦略ミスもありました。最終契約年に結果を残したくて、スカウトの際には記録だけを重視して採用してしまった。彼らは、周りの指導者からも「あれは取ってはいけない」と言われていた素行が悪いことで有名な選手たちだったわけです。
兵庫県の西脇工業高校を駅伝強豪校に育て上げたことで有名な渡辺公二先生からも、「最初は記録だけでなく、人間性を重視して採らないといけない」というアドバイスを受けていました。
しかし、私も当時30代後半でまだ若かったこともあり、そうはいっても兄貴分として学生と正面からぶつかれば何とかなると思っていたのかもしれません。自分自身が素行の良い選手ではありませんでしたから、彼らと一緒にやっていけると高を括っていたこともありました。
結果は、渡辺先生の言うとおりでした。生活態度は良くならず、タイムはいいから上級生も強く注意できない。すると部全体の雰囲気が荒れて、彼ら自身を含め退部者が続出してしまうことになったのです。
彼らは言いました。「門限を破ろうが何をしてようが、タイムを出せばいいんでしょ」と。 たしかに、高校までは才能や身体能力でほぼ結果は決まると言っていいでしょう。しかし、大学以降は違います。少々センスや体格で劣っていても、ちゃんとした練習と生活でこつこつ努力していけば、大学4年になる頃には逆転現象が起きるのです。
これは社会人になってからも同じことが言えると思います。若い時にすぐに結果が出せなくても、努力を続ければちゃんと成果を出せるようになる。だから、焦らず努力できる人間性を身に付けることが、何よりも大事なのです。
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