「鉄道と美術」はそこはかとなく相性がいい理由 鉄道は当世風俗を映し、人々の心を支えてきた

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(左)香月泰男《煙》(1969年、山口県立美術館蔵)、(右)香月泰男《バイカル》(1971年、山口県立美術館蔵)展示風景(撮影:小川敦生)

第二次世界大戦直後、シベリア抑留を体験した画家、香月泰男は復員後、その体験をもとに57点の「シベリア・シリーズ」を描いた。モノクロームに近い表現で、蒸気機関車の煙や車窓から見たバイカル湖の風景を描いたのが、この2点である。

シベリア抑留は実に過酷で、亡くなった同朋も多かったと伝えられており、香月のこのシリーズのほかの絵には、亡霊のようなモチーフも多く登場する。そうしたシリーズの中で、蒸気機関車の煙は、凄まじい力強さを表しているように見える。煙だけを描いていることが、迫力を生んでいるのだ。

(左)柳幸典《トーキョー・ダイアグラム H'6》(1994年、東京都現代美術館蔵)、(右)立石大河亞《香春岳対サント・ビクトワール山》(1992年、田川市美術館蔵) 展示風景(撮影:小川敦生)

《香春岳対サント・ビクトワール山》は、立石大河亞こと立石絋一が晩年に制作した自伝的な絵画作品だ。香春岳は立石が生まれ育った福岡県田川市の近くにある山、サント・ビクトワール山は19世紀フランスの画家ポール・セザンヌがしばしば自作の題材にした南仏の山である。

おそらく立石は、自身とセザンヌを対比すること自体をパロディにしたのだろう。黒いダイヤ(=石炭)、ひまわり、鞍馬天狗、富士山など立石の人生と関わりがあったと思われる実に雑多なモチーフであふれた作品だが、中でも蒸気機関車が画面のこちらに飛び出して来そうな勢いを感じさせるのは、やはり炭鉱の町育ちの立石にとって、重要な存在だったゆえの表現なのだろう。ちなみに立石は、ほかの作品でもしばしば蒸気機関車を描いている。

一方、現代美術家、柳幸典の《トーキョー・ダイアグラム H'6》は立石の作品とほぼ同じ時期に制作されているが、表現の手法はまるっきり違う。柳は、東京の地下鉄の路線図を12の路線ごとに独自のセンスで分解した略図(ダイヤグラム)を、連作のように仕立てている。

地下鉄は現代の多くの大都市に欠かせない存在だが、東京の地下鉄の発達ぶりは世界の中でも格別とも言われる。柳の作品は、現代美術家の時代分析とも見ることができるのではないだろうか。また、ごちゃごちゃ感を特徴とする立石の作品と並べたのは、現代美術の多様性を意識した展覧会企画者の配置の妙の表れのようにも見える。

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