精神科病院が「東急8500系」を購入した納得の理由 必要資金8000万円、調達にはクラファンも活用

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精神科病院に対する偏見や差別は少なくない。入院したら一生出られない、薬漬けにされるといった風説が付きまとう。これは小説、映画などのメディアが恐怖を煽ったからでもある。しかし、これはフィクションではないかもしれない。戦前戦後を通じて、日本での精神障がい者への対応は治療より隔離が重視されてきた。また民間の精神科病院に国が強い権限を与え、強制入院、身体拘束、監禁隔離が可能であった。

入院させても退院できない事情には患者の家族の要望もあった。患者は退院しても自立できないかもしれない。しかし、入院していれば食事は出る。

一方、病院は治療機会より生活の場を提供するわけで、経営努力はそれほど求められない。

国は一般病床16床に対して最低でも医師1人と定めているけれど、精神科病院は病床48床に対して医師1人という特例がある。それでもいいからやってくれ、という国の方針である。多くの国で精神科病院は国公立だけれど、日本は民間にも任せた。民間企業としては患者がいれば収入があるから、この状態がずっと続いていた。

精神科病院には行きにくい

しかし、この仕組みが通用しなくなってきた。ひとつは国際社会が注視する人権問題だ。「精神障がいがあるからといって閉じ込めていいのか」。もうひとつは国の財政問題。保険治療で衣食住までケアするとお金がかかる。だから「地域包括ケアシステム」とか、地域移行という言葉をうまく使って、患者を外へ出しましょう。通院ベースでいきましょう、となってきた。もちろんその背景には外来投与できる治療薬の進歩もある。

東京さつきホスピタルは京王電鉄京王線のつつじヶ丘付近にある(写真:東京さつきホスピタル)

ただし、この移行は容易ではない。治療方式の転換は経営努力を求められる。病床を1つ手放せば外来4人を獲得しなくては採算が合わず病院経営が成り立たない。病床は国に割り当てられたようなもので、手放すと返ってこない。

心のトラブルを抱える人は増えていて、放置すればいつか心が壊れ、精神の病に至る。筆者の個人的にも近いところで病む人の話を聞いている。もはや身近な病気だ。生活習慣病のように、未病の時点で治療し、病状悪化を防ぐ手立ても精神科病院の役目ではないか。しかし精神科病院には行きにくい。心の病がある人ほど行きにくいだろう。

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