精神科病院が「東急8500系」を購入した納得の理由 必要資金8000万円、調達にはクラファンも活用

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東京さつきホスピタルを運営する特定医療法人「研精会」の石坂真一郎副理事長は次のように話す。

「私見ですが、もっと早く医療介入してれば重症にならなかったかもしれないという事例もあります。衝動的な自殺にしても、発端は孤独や孤立、1人ぼっちになって相談相手がいないというか、1人で思い詰めて、負のスパイラルにハマる。そこまでに僕らが出ていって『どうしたの』って話を聞く場面があってもいい。こちらから思いを届けられなければ、少しでもこちらに入ってきやすい雰囲気を出せないかなって、前々から思っていました。地域の人々も参加できるお祭りを開催しているのもそのひとつです。別の系列病院で動物園を併設しようという構想もあるんです」

東京さつきホスピタルには内科や小児科もある。職場や学校へ行こうとするとお腹が痛くなる。それは胃腸の病気ではなく、心のメッセージかもしれない。小児科に通っていた子が成長したとき、心の苦しみを感じたとき、混乱しているとき、この病院には思春期外来がある。小児科の続きという感覚で行ける。そこに電車が「親しみやすさ」を加える。

クラウドファンディングの目的は費用だけではない

石坂氏は鉄道ファンではないけれど、東急目蒲線(当時)の沿線で生まれ育ち、電車に親しみはある。池上線の長原駅付近にも住んだことがあるそうで、筆者の通っていた幼稚園の近くだった。現在も東急電鉄沿線に住んでいる。

ネットニュースで東急の電車販売を知ったとき、「少しでも入りやすい雰囲気づくり」のシンボルとして、子どもが好きで、誰もが親しむ電車が適任だと考えた。理想の風景は世田谷公園(世田谷区)だ。そこには蒸気機関車「デゴイチ(D51)」が保存展示されている。付近に保育園もあり、SLの周りで子どもたちが遊び、人々が談笑する。あんなふうに、誰もが笑顔で訪れる場所にしたい。

すぐに病院内にある社会福祉法人「新樹会」で就労継続支援施設「創造農園」園長などを務める諏訪智氏に相談した。古くからの知人で気心知れた仲。しかし、当初は反対したという。

「(鉄道マニアでもないのに)ナニ言ってるのって、どれだけおカネがかかるんだって。でも、電車を買うためにいろいろ調べて、クラウドファンディングを知りました。これなら全額負担にならずにすむかもしれない。そしてもっとも重要な点は意義。石坂さんの話を聞くほど、当院とグループだけの話に留まらず、精神医療全体に一石を投じることができるかもしれない。これは面白いことになるなと。これはボクの性格で、面白いならやるかって」(諏訪氏)

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