精神科病院が「東急8500系」を購入した納得の理由 必要資金8000万円、調達にはクラファンも活用

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このプロジェクトは社会福祉法人「新樹会」として立案した。理事長も「いざとなったら全額出す」と応援してくれたという。しかし、主旨を考えれば全額負担では意味がない。クラウドファンディングは資金を得るだけではなく、支援してもらうことも目的のひとつだ。法人がクラウドファンディングを実施する場合はこの「メッセージを届けたい」という目的もある。大井川鉄道のSL復活プロジェクトもそうだ。だから全額を募集するわけではない。おカネも必要だけど「応援」を集めたい。

「大井川鉄道の1億円クラファンには勇気をもらいました。京王沿線なのに東急の電車なのかってことも言われますけど、東急の売り出しを知って決めたのでタイミングですよね。グループLINEで経営陣と相談して、東急にメールで申し込みました。その時は先着順で11位と言われて、もうだめだとあきらめました」(石坂氏)

最終的な費用は8000万円に

しかし応募した上位陣は次々に脱落していく。車両購入費、土地、輸送費までは想定できても、その後、厚生労働省の指導でアスベスト処理費が必要、雨漏りを防ぐために屋根をシール加工する費用、帯電しがちな電装部品の絶縁処理費用など、あとから費用が追加されていく。

東急のアドバイスによると、設置場所の基礎工事も必要だったという。やわらかな土地にレールを置いただけでは、地震の時にひっくり返る。実はここ、東京外かく環状道路工事による道路陥没事故と同じ町内だ。地盤に関して敏感な地域になっている。だから地域の人々に不安を与えてはいけない。もちろん、病院施設としてわずかな傾きも許されない。

こうして費用が積み上がり、最終的には地盤改良も含めて7500万円、病院側の費用も合わせると8000万円ほどになる。この結果に驚いたのは病院側だけではない。東急側も困惑したという。今年創業100年を迎えた東急は、地方鉄道に中古車をたくさん譲渡してきた。しかし電車を病院に売るなんて初めてだ。その事情を病院側は理解した。

東急は8500系引退を記念して「ありがとうハチゴー」プロジェクトを立ち上げている。そして今年は創業100年の記念すべき1年だ。なんとしてでも成功させたい。そして8500系を設置する病院の趣旨についても賛同できる。だから東急側も企業努力を惜しまない。輸送経路の測量、車両の輸送、設置場所の整備などは、すべて東急グループの関係会社が結集して、病院を支援してくれたという。

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