トヨタが27兆円の金融資産を抱えている理由 自動車以上に効率的なビジネスのカラクリ

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「顧客への重要な付加価値サービス」だという趣旨は、2005年3月期の有価証券報告書から多少の文言の違いはあれ、2014年3月期まで一貫して記載がある。一方、ホンダと日産の有価証券報告書には、これらに類似や該当する記載がない。

もちろんホンダと日産が顧客に対する金融サービスの提供を軽視していることはないであろう。その証拠にホンダも日産も総資産の約半分が金融資産である。しかしトヨタのように10年間一貫して、資金を提供する能力が重要な付加価値サービスと有価証券報告書に記載し続けることに、トヨタの金融事業にかける意気込みがあると見て取れるのだ。

自動車販売と金融商品は相性がいい。自動車を現金で一括購入する人は決して多くはない。個人ならローンを組んで買ったり、法人が購入者ならリース契約をする例も少なくない。この時には、自動車ローンやリースの他に自動車保険の提案もできる。トヨタにはクレジットカード事業もある。つまり、トヨタ系販社が自動車の販売をきっかけとして、さまざまな金融商品の販売や提案につなげる。そのためにトヨタは金融資産をたくさん持っている側面がある。

金融事業の営業利益率は10年で倍増

トヨタの金融事業は収益性も高い。自動車事業と金融事業の売上高営業利益率を見てみよう。2014年3月期では、自動車事業が8.8%に対し、金融事業は20.6%と高い。これが10年前の2002年3月期では、自動車事業が7.4%、金融事業は9.9%だった。

金融事業の収益性が上がったのには2つの理由が考えられる。一つはトヨタ自身の資金調達コストが低いこと。ムーディーズなどの格付会社の格付もほぼ日本国債と同様の評価である。資金調達コストが低く、いわばお金を安く仕入れることにより、金利競争でも優位に立っていると考えられる。

もう一つは営業努力であろう。金融事業の営業利益は2002年3月期は686億円にすぎなかったが、2014年3月期には2948億円と約4.3倍にまで拡大した。一方の自動車事業は、1兆0845億円から1兆9387億円と約1.8倍に広がったが、金融事業ほどの伸びではない。

ただ、資産運用効率でいえば、自動車事業の方が圧倒的に優れている。代表的な指標である売上高を総資本(総資産)で割って求める「総資本回転率」を見てみよう。自動車事業では、1.04回に対し、金融事業は0.07回。つまり、圧倒的に資産を効率的に運用しているといえる。それでもトヨタが金融事業に注力する背景には、自動車事業における激しい国際競争がありそうだ。自動車販売を通じて周辺サービスに力を入れることで、利益を稼ごうという方針なのかもしれない。

李 顕史 公認会計士、税理士

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公認会計士、税理士。一橋大商学部卒。2000年中央青山監査法人(現あらた監査法人)金融部入所。銀行、証券会社、割賦金融などで会計監査と内部統制業務を担当。2010年に李総合会計事務所設立。主に上場会社、金融会社の内部監査・経理・管理会計のコンサルティング業務を提供。

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