W杯開催地カタール、批判される「人権問題」の中身 史上最も高いW杯を支えた出稼ぎ労働者たち

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このため、建築現場で暑さのために倒れて亡くなった労働者の死因が、病気や自然死とされるケースが少なくない。さらに、帰国後、数年経った後に臓器や心臓の不全という形で、暑さにさらされたことに伴う後遺症が出てくることもあるというが、こうしたケースも関連性があるとはみなされていない。 

国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長は開幕前日の19日、カタールの人権問題に対する西側諸国の批判は「偽善」であり、湾岸地域で画期的と称賛される労働条件、安全面の改革を実行してきたと主張した。

アムネスティ・インターナショナルとHRWは、W杯開催の準備期間中に死亡したり、負傷したりした移民労働者やその家族に対する補償基金の新設を求めてきたが、カタール政府やFIFAは、人権団体の動きは売名行為であり、既存の枠組みが存在するとして要求を拒否した。 

カタールW杯はこのほかにも、LGBTQ(性的少数者)への差別や、女性の権利侵害、アルコールの販売でも海外メディアに格好の攻撃材料を与えてきた。アルコール販売は、開幕の2日前になって一転して方針が変更され、会場周辺での販売が禁止された。

こうした話題が多く取り沙汰されたのは、文化的な価値観の違いが存在するためであろう。カタールはイスラム教国であり、シャリア(イスラム法)に基づいた法律や制度、また伝統的な文化や習慣で、国家や社会が運営されている。

海外メディアの洗礼で改革進展も

欧米メディアの主張に対し、インファンティーノ会長は、ヨーロッパの植民地支配の歴史や、基本的に移民の流入を阻止しているヨーロッパの政策を引き合いに、ダブルスタンダード(二重基準)だと批判している。インファンティーノ会長が指摘するように、欧米諸国による批判はカタールや中東の実情や文化を軽視した面があることは否めない。

女性の人権や飲酒、LGBTQなどもイスラム的な価値観からサウジやイランなどでは制限されており、カタールが例外的にひどいわけではない。サウジやUAEでも改革が進むものの、移民労働者の権利はまだまだ十分とは言えない。

W杯開催を通じて、移民労働者などの扱いに厳しい視線が注がれたカタールは、海外メディアの厳しい洗礼を受けた形で、結果的にほかの湾岸諸国よりも改革が進展することになるだろう。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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