中国中央テレビ(CCTV)の元キャスターで、150万部のベストセラー作家、柴静(チャイ・ジン、39歳)という女性が制作したドキュメンタリーが2週間ほど前に突然、無料のネット視聴の形で発表された。タイトルは『穹頂之下(Under the Dome)』(「ドームの下で」、リンクはYouTubeの日本語字幕つき動画)。
発表と同時に広がった巨大な反響を理解するには、視聴回数を紹介するだけで十分だろう。中国の動画配信サービス「優酷」や「愛奇芸」「騰訊」などでの視聴回数は28日に5000万回、3月1日に1億5000万回、2日には2億回に達したとされる。発表直後から「人民網」という人民日報系のウエブサイトは大々的に紹介し、本人のインタビューも掲載。ほかの政府系メディアでも盛んに報道され、SNS上ではリンクを張ったコメントが洪水のようにあふれた。
中国人は「PM2.5」なんてあまりわからない?
ここままでは文句のつけようのない大成功だった。ところが、暗雲はすぐに漂い始める。中国当局の言論規制のメカニズムが動き出したのである。現在、中国国内で「ドームの下で」はいっさい、公の場で語られることも報じられることもない。たった2週間あまりで、何が起きたのだろうか。
日本ではPM2.5と言えば、それ以上の説明がいらないぐらい、中国での大気汚染問題の深刻さは誰もが知っている話になった。しかし、中国でPM2.5と言っても中国人はあまり分からない。
中国語では、このPM2.5をひっくるめた大気汚染問題のことを「霧霾」と呼ぶ。読みは「ウーマイ」。霧はそのままの意味で、霾は硫酸や硝酸、ほこりなど微粒物質が空気中にただよって視界が悪くなる状態のこと。要するに、工場排煙や車の排ガスなど人為的な公害で空気が悪くなった状態のことである。
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