どちらに共感?「紫式部と清少納言」真逆の仕事観 現代の「同人誌」活動に通じる「源氏物語」誕生秘話

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紫式部の像
紫式部「源氏物語」の誕生秘話をお届けします(写真:soulman/PIXTA)
日本の古典文学というと、学校の授業で習う苦痛な古典文法、謎の助動詞活用、よくわからない和歌……といったネガティブなイメージを持っている人は少なくないかもしれませんが、その真の姿は「誰もがそのタイトルを知っている、メジャーなエンターテインメント」です。
学校の授業では教えてもらえない名著の面白さに迫る連載『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』(毎週配信)の第8回は、『源氏物語』の作者で、2024年のNHK大河ドラマの主人公でもある紫式部の『紫式部日記』について解説します。
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世界中を見渡しても希有な「源氏物語」

もうすぐ年末がやってくる。現代の12月末といえば、東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケット、通称コミケの時期。今年もたくさんの物語を通してさまざまな交流がなされることだろう。

実は『源氏物語』の作者・紫式部もまた、「物語を通した交流活動」をかなり積極的に行っていた1人。現代の「同人誌」活動さながら、平安時代にも、「物語」活動があったのではないかといわれている。

紫式部も『紫式部日記』の中で、「物語について語り合う友人がいることのすばらしさ」についてしみじみ書いている。

<原文>
はかなき物語などにつけて、うち語らふ人、同じ心なるは、あはれに書き交はし、すこしけ遠きたよりどもを尋ねてもいひけるを、ただこれをさまざまにあへしらひ、そぞろごとにつれづれをば慰めつつ、世にあるべき人数とは思はずながら、さしあたりて恥づかし、いみじと思ひ知る方ばかり逃れたりしを、さも残ることなく思ひ知る身の憂さかな。(『紫式部日記 現代語訳付き』紫式部、山本淳子訳注、角川ソフィア文庫、KADOKAWA、2010年)

<筆者意訳>どうでもいい物語について語り合う仲間のなかで、同じような感受性を持つ人がいる。そういう人とは、読むとじーんと感動するような手紙を贈り合った。物語に興味のありそうな人であれば、少しくらい遠い人でもどうにかツテを探して声をかけた。物語を通して、私はいろんな形で友人と交流した。そうして私は日々の寂しさを紛らわしてきたのだ。

私は世間では取るに足らない存在だとわかっているけれど、それでも物語によって人と関わっているとき、恥ずかしいことやつらいことから逃れられた。でも宮中で働き始めて、恥ずかしさやつらさを、1つ残らずすべて思い知っている。なんてつらい人生なんだ。

物語について語り合い、人生のつらさを紛らわしている紫式部……。現代のオタクである筆者も「わかるよ!」とうなずきたくなるところである。

しかし紫式部は、どうして『源氏物語』なんて大長編を書くことができたのか?と世界中の文学作品を知れば知るほど思ってしまう。11世紀初めに、女性が、宮廷を舞台にした大長編のフィクションを完成させていることなんて、世界中を見渡してもなかなか希有なことである。

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