一方シュンペーターの成長理論は、アルゼンチンのような国の成長要因として、資本蓄積とキャッチアップ経済、とりわけ輸入代替政策に適した制度や政策を採用していることを挙げる。
しかしその後にイノベーション経済に移行するための制度変更を行わなかったために停滞したという。
アルヴィン・ハンセンはアメリカ経済学会の会長を務めていた1938年に、アメリカ経済の停滞は半永久的に続くと述べた。当時世界は1929年の大恐慌からようやく脱け出したところだった。
最近では、2008年のグローバル金融危機後にローレンス・サマーズらが「長期停滞」という言葉を再び使っている。彼らは、経済の状況がハンセンの1938年の指摘とよく似ていると考えたのだった。
IT革命やAIの進化の真っ只中だというのに、アメリカの生産性が2005年から伸び悩んでいるのはなぜだろうか。新古典派のモデルは、長期停滞の謎を説明できない。
すでに述べたように、このモデルでは資本蓄積に伴う収穫逓減により成長は持続的に鈍化することになっているからだ。
シュンペーターが示す未来
では、シュンペーター理論はどうだろう。シュンペーターが示す未来は、ローレンス・サマーズやロバート・ゴードンより明るい。
その理由は、すくなくとも2つある。第1に、IT革命はアイデアを生む技術を大胆に改革し続ける。
第2に、IT革命の大波は全世界に広がっており、イノベーションによる潜在的利益を大幅に拡大(規模の効果)するとともに、出遅れたときの潜在的損失を大幅に拡大(競争効果)した。
かくしてこの数十年間、イノベーションは質量ともに加速している。イノベーションがこれほどのペースで創出されているのに生産性の伸びに反映されないのはなぜか。
先進国ではここ数十年にわたり所得格差の拡大ペースが加速している。とりわけ、高所得層での拡大が顕著だ。最上位1%の所得が全所得に占める比率は急伸している。なぜこうなったのだろうか。
この謎を解くアプローチの1つは新古典派モデルに基づくもので、成長の唯一の源泉は資本蓄積にあるとする。
もう1つのアプローチはシュンペーターの成長理論に基づくもので、イノベーションとそれが生み出す超過利潤が成長のもう1つの源泉になると同時に、所得格差拡大の原因にもなると考える。