「Z世代は中国に好感」世代で分かれる好感度の理由 岸田政権「嫌中世論」に頼る対中外交の危うさ

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中国は岸田政権の発足直後は、岸田氏が日中国交正常化に腐心した大平正芳元首相ら対中関係重視の「宏池会」を率いていることから関係改善に期待した。しかし、右派への抑えが利く安倍氏を失ってから岸田氏は、関係改善に否定的な右派の顔色をうかがう姿勢が目立つ。王毅外相が2021年1月に林氏に訪中を求めたのに実現していないのも、訪問に反対する右派への配慮からだった。

改善を阻むもう1つの壁は、世論の「反中」「嫌中」の高まりだ。岸田氏自身の支持率も3割台に下落、「弱い首相」による関係改善のイニシアチブは、翼賛化する嫌中世論に受け入れられるか定かではない。

Z世代の4割超が「中国に親しみ」

悪化するばかりの対中観だが、内閣府が毎年はじめ発表する「外交に関する世論調査」をチェックすると極めて興味深い数字が浮かび上がった。2022年1月発表の「日本と中国」の項目を見ると、中国に「親しみを感じる」は全体で20.66%(前年比+1.4ポイント)。「親しみ感じない」は79.0%(+1.7ポイント)と予想通りの数字だ。

しかし、これを世代別にみると、いわゆる18~29歳代のZ世代で「親しみを感じる」割合はなんと41・6%と高く全体の倍以上。60歳代(13・4%)や70歳以上(13・2%)と比べると、世代差がいかに広がっているかわかる。

なぜ世代によってこれほどの開きが生まれるのか。

私自身の経験を踏まえて分析したい。私は19歳になった大学1年の1967年夏、全国学生の中国訪問を組織する「斉了(ちいら)会」の訪中団に参加、文化大革命下の中国を約3週間訪れたことがある。その活動を記念する展示・講演会がこの2022年11月開かれ、話をする機会があった。

当時、私の中国への関心は①文革の「造反有理」のスローガンは、ベトナム反戦運動で盛り上がった日本の学生運動と共振、②社会主義社会へのあこがれ、③中国侵略に対する贖罪意識などだった。参加した多くの学生もほぼ同じだったと思う。

つまり中国という「他者」に自分を投影して、期待するイメージを勝手に膨らませたのだった。その後、文革は巨大な権力闘争だったことがわかる。天安門事件によって社会主義への期待が破られ、香港での大規模デモ報道を見て、中国から離れていった同世代の人がいかに多かったか。中国に委ねた幻想の皮が1枚ずつはがされていったのだ。

現在も同じような中国観は、形を変えて生きている。中国を他者としてではなく、その政治・社会に日本や欧米の統治システムを投影し、欧米のモノサシから判断する観察方法だ。これが60、70歳代で「中国に親しみを感じない」理由の背景だと思う。

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