中小企業にこそブランディングが必要な理由 小規模活かし尖ったブランドコアの設定が可能

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BtoBブランディングには、BtoCと比較すると2つの大きな特徴があります。1つは、BtoC企業よりも対象となる顧客が絞られるということです。消費者向けの商品であれば、数百万~数千万人が対象になり得ます。だからこそ、マス広告への出稿が多くなるわけです。

一方、BtoB企業であれば、見込み客リストを作成しても数千~数万件です。したがって一般的な認知度を上げることよりも、絞られたターゲットに特化したブランディングを行うことが重要です。

もう1つは、対象が少ないことから、従業員一人ひとりがブランド・タッチポイントとして大きなウエイトを占めるということです。社員の顧客企業や取引先への意識や普段の行動がブランディングの鍵を握るということで、BtoC以上にインナー・ブランディングの取り組みが重要になります。

多くのBtoB企業は、どうしても受け身体質になりがちです。マーケティングやブランディングといった顧客に対する積極的な働きかけを軽視し、注文があれば一生懸命対応するという姿勢を貫いてきました。もちろん一生懸命対応することが悪いわけではありません。しかし注文を聞いているだけでは、顧客企業から「提案がない」と不満に思われるようになります。顧客を理解し、自社の価値を明確に再定義して、定着させ、顧客に積極的に提案していくことで、ようやく価値を認めてもらえる時代になったということです。そのような企業に生まれ変わるためにもブランディングが必要なのです。

他にBtoB企業のブランディングが重要な理由として、社員ロイヤリティの向上や優秀な人材採用の可能性拡大があります。BtoB企業でテレビCMを出稿している会社の大きな目的は、企業認知度の向上であることは言うまでもありません。

テレビCMを数多く出稿しているBtoC企業と比べるとBtoB企業は認知度がどうしても低くなります。業界大手のIT企業に就職が決まったのに、家族に報告したら、「そんな聞いたこともない会社で大丈夫なの?」と言われてがっかりしたという話はよく聞こえてきます。そこで、もちろん対象となる企業に知ってもらいたいということもあるのですが、それ以上に社員の家族・友人・知人や優秀な学生にも社名を知ってほしいとテレビCMを出稿するわけです。

社員は自社の名前が知られるようになることで誇らしい気持ちになり、会社へのロイヤリティが高まります。優秀な学生もテレビCMを打っているような会社ならと応募してくる可能性が高まるのです。

まずは小さくスタートしてみよう

中小企業やBtoB企業こそブランディングに取り組むべきなのに、そうしてこなかったのは、ブランディングに対する誤解があるからです。「実施に必要なコストが高い」「マス広告に出稿しないといけない」「取り扱う商材が高級品ではないから不要」などが主な誤解です。

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これらとは別に、取り組まない理由として「社内にノウハウや知識がない」「ブランディングに割くための人や時間のリソースがない」といったことを挙げる経営者もいます。

こちらに関しては、まず、自社でも始められることから少しずつ実施してみることをおすすめします。

いきなり専門のコンサルタントに相談して、大々的にブランディングに取り組むよりは、一度やってみて自社の課題を洗い出してみることも良いでしょう。

しかし、手こずりそうだから、あるいはもっと高度なことがしたいから専門家に相談しようとなった場合でも、ブランディングについて何も知らない段階でゼロから始めるのではコストも時間も異なります。
それよりは、ブランディングについて勉強しながら何らかの取り組みをして、自社の課題もわかっているという段階で相談するほうが、より高い成果につながりやすくなるでしょう。

金子 大貴 ブランディングディレクター

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かねこ だいき / Daiki Kaneko

株式会社 大伸社コミュニケーションデザイン チーフ ブランディングディレクター。2009年、株式会社大伸社入社。大手上場企業から中小企業まで、企業のリブランディングプロジェクト、新製品のコンセプト開発、ブランド浸透戦略立案などの幅広い業種業態でのブランディング支援を実施。

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一色 俊慶 クリエイティブディレクター

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いっしき としのり / Toshinori Isshiki

株式会社 大伸社コミュニケーションデザイン 代表取締役CEO クリエイティブディレクター。2001年、株式会社大伸社入社。コピーライター、マーケティングプランナーを経て2020年より現職。住宅設備や生産設備、医療機器メーカーなどBtoB企業のブランディングからマーケティング戦略を統合的に支援。

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