これから冬の到来とともに、イギリス国民はより多くの暖房を必要として、より多くの電気やガスといったエネルギーを消費する必要が生じる。他方で、ロシア・ウクライナ戦争も一因となっているエネルギー価格の高騰は、イギリス、さらにはヨーロッパの生活者や企業に、重い負担を課す結果となっている。
新しい「不満の冬」がやってくる
かつて、1978年から79年にかけてのイギリスにおいて、ジェームズ・キャラハン労働党政権下での労働争議と、それに伴うデモやストライキによって、経済と社会が混乱して「不安の冬」と呼ばれる状況が発生した。おそらく今年の冬も、それとは異なる要因によるものであるが、新たな「不満の冬」となるであろう。そこでは低成長とインフレが国民の生活を苦しめ、その悪夢が繰り返されるかもしれない。
生活に困窮する一般市民と、厳しい財政規律を維持せねばならないスナク保守党政権との間での、どのような最適な均衡点を見いだすかが問われている。それに挫折すれば、政権と国民との間での相互不信や摩擦が激しくなるであろう。
スナク首相は、首相就任当日の演説で、「経済の安定と信用をこの政府の中心課題にする」と述べて、さらにはジョンソン前々首相やトラス前首相のポピュリスト的な政治と訣別するためにも、「言葉ではなく行動でこの国をまとめる」と約束した。はたして、スナク首相はこの新しい「不満の冬」を乗り越えることができるのだろうか。
ロシア・ウクライナ戦争は、民主主義諸国に対して、巨大な問題を投げかけている。すなわち、国民が不満を募らせる中で、国際的な規範を守るためにどれだけ人々がコストを支払うことを受け入れるか、という問いである。それは日本もまた例外ではない。これから戦争が長期化していけば、日本の市民や企業にとっても、エネルギー価格の高騰は重い負担としてのしかかってくるであろう。
そのような中で、国民は高いコストを支払うことを避け、ポピュリスト的な主張に魅了されるのか。あるいは構造的な問題を直視して、それを乗り越えるために誠実かつ忍耐強く、問題に取り組むのか。その選択は、民主主義体制と権威主義体制のイデオロギー的な対立が言及される中で、民主主義の将来に巨大な影響を及ぼすであろう。
(細谷雄一/API研究主幹、慶應義塾大学法学部教授)
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