九州に負けじと動く東北、半導体の振興で再挑戦 好機を逃すまいと企業や教育機関が連携を強化

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遠藤教授は、「ハイテク分野でも生産機能としての工場だけだと利益が少ない。自分たちで次世代技術にキャッチアップしていかなければ」と語る。

東北大学の遠藤教授
3次元NAND型フラッシュメモリーの開発者である東北大学の遠藤哲郎教授(写真:東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター)

工場が多い東北は従来、開発設計などの収益性の高い部分を他地域に持っていかれていたといえる。地域で人材を用意できれば、産業の自立性を高めることができる。

苦い記憶の払拭がカギ

また研究会では、技術開発に加え、地域の子どもや若者に向けた半導体産業のPR方法なども検討する。こちらは随分悠長な取り組みにみえるが、企業は必死だ。

東北で半導体産業が活況を呈していたのは、もう20年以上も前のこと。その後、台湾・韓国の半導体メーカーの台頭の影響などで、東北の半導体工場は閉鎖や撤退、売却が相次いだ。

代表的なものでは、2012年の秋田エルピーダメモリの経営破綻。セーフティネット保証1号(連鎖倒産防止)の対象にも指定され、関連産業への影響が懸念された。秋田エルピーダメモリの工場はその後、米国のマイクロン、台湾のパワーテックテクノロジーによる買収を経て、20年に閉鎖された。従業員252人が退職した。

国内半導体製造企業のジェイデバイスによる宮城工場と会津工場の閉鎖も規模が大きかった。この2工場は、半導体組立事業から撤退した富士通より12年に買収。しかし4年後の16年に閉鎖を決定した。2工場で合計800人超の従業員を抱えていた。

半導体産業の盛衰に翻弄された東北の人々の記憶は、まだ生きている。これこそが地道なPR活動が必要とされる背景だ。確実な需要増と国策を追い風に、半導体産業を地域振興につなげられるか。苦い記憶の克服を含めて地道な努力は始まったばかりだ。

吉野 月華 東洋経済 記者

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よしの・つきか / Tsukika Yoshino

精密業界を担当。大学では地理学を専攻し、微地形について研究。大学院ではミャンマーに留学し、土地収用について研究。広島出身のさそり座。夕陽と星空が好き。

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