日銀が金融緩和策を変更すると一体どうなるのか 一歩間違えば円大暴落だけでは済まない事態に

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競馬である。

10月30日は秋の天皇賞(東京競馬場の第11レース、芝2000メートル、G1)。これが、日本の馬が凱旋門賞に大挙参戦できるようになった最大の貢献者であり、同時に、日本馬が凱旋門賞だけは勝てなくなった理由を作った「犯人」である。

秋の天皇賞が3200メートルから2000メートルに変更されたのは1984年のことだ。最初の勝ち馬がミスターシービー。「4冠達成!」という中継アナウンサーの絶叫が今も蘇る。

この直後に、シンボリルドルフが無敗で3冠を達成し(当時は菊花賞は11月)、2年連続3冠馬の誕生となるのである。ミスターシービーは、JRA最初のG1レースの勝ち馬ともなった。

JRAは1980 年から、世界に通用する強い馬作りを目標に大改革を行った。天皇賞はそれまで「勝ち抜け」(つまり1度勝つと、もう出走できない)で、1980年からそれが廃止された。

1984年にはグレード制が導入され、G1、G2、G3が生まれたのである。ただし、当時はJRAの勝手格付けであり、国際的なグレード制に統合されるのはずっと先のことである。

招待制でジャパンカップが始まったのが1981年。並み居る日本の最強馬が無残に蹴散らされ、驚愕と絶望が日本競馬界を覆ったのである。

このとき進められたのが、世界の流行にあわせて、スピード競馬への移行であった。それまで、日本ではステイヤーが最高の馬とされ、頂点の舞台は3200メートルの天皇賞であった。その天皇賞の1つを2000メートルにしてしまったのだから、批判は殺到した。

ステイヤーの血を濃く持つ馬が成功している

しかし、JRAは女性への競馬の普及、広報活動なども同時に行い、非常に革新的に日本競馬を改革していった。

1600メートル戦のマイルチャンピオンシップが誕生したのもこのときであり、稀代のマイラー、ニホンピロウイナーが2年連続圧勝したが、まだ重賞ではなかった。また、ニホンピロウイナーもJRAから3年連続優駿賞最優秀スプリンターとして表彰されている。

このときはマイラーという言葉すら定着していなかったのである。札幌競馬場はダートだけだったのが、芝コースが作られ、新潟競馬場も一変し直線スピード競馬となり、中山競馬場も阪神競馬場も洋芝オーバーシードとなり、日本競馬は激変した。

この過程で、スピードを重視するあまり、ステイヤーが衰退していった。軽いスピードのある器用な馬を生産したほうが、新馬、未勝利を勝ち上がりやすく、生産としては安全であったからだ。メジロマックイーンのような例外を除いて、ステイヤーでありながらスピードを持つという馬が減っていった。こうして、スタミナに優れた日本馬は減少して行ったのである。

しかし、現在の日本の超一流馬、そして種馬として成功している馬を見ると、ステイヤーの血を濃く持っているという共通項がある。メジロマックイーン、ステイゴールド、そしてディープインパクトもである。そもそもサンデーサイレンスはステイヤーの要素を持っており、これが底力になっている。

本当は新潟競馬の改革案を書きたかったのだが、また今度。実は1000メートルの直線競馬を発展させることがステイヤー育成のカギなのである。

さて、今年の天皇賞はシャフリヤール(5枠8番)。海外遠征して疲弊する馬と成長する馬といるが、彼は後者。期待したい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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