しかし、最も悪い影響は国債の新発市場で起きた。誰も、国債の入札に応じなくなったのである。長期国債だけでなく、短期国債でも、どんな期間の国債でも、入札がすべて不調となった。日銀の政策の先行きが不透明すぎて、短期金利に対してまで、国内市場ですら疑心暗鬼になってしまい、国債市場は全面的に死んでしまった。
財務省だけでなく、官邸も、いや国全体が、薔薇色総裁代行を攻撃した。
薔薇色総裁代行はこれに耐え切れず、総裁代行だけでなく、職そのものを辞任し、行方がわからなくなってしまった。周辺からは、海外に渡航し、欧州のある国でひっそり過ごしているというウワサがどこからともなく聞こえてきた。
ついに、灰色総裁に強硬論を唱えていた赤色副総裁の出番となった。彼は、かつて、といってもこの間10日も経っていないが、灰色総裁に打診した持論の金融政策を実施した。
しかし、時すでに遅しだった。この大混乱のあとに至っては、まっとうな政策だろうが何であろうが、日銀の動きは全面否定された。国会ではなんと日銀解体論が吹き荒れ、これはさらに円の暴落をもたらした。
いよいよ、日本沈没か……。新聞でもテレビでも、この見出しが躍ったが、人々は目を背けるように、この話題に触れないようになった。テレビはこの問題を扱うと消されてしまうため、ワイドショーでは他愛もない芸能人のスキャンダル特集を流すスタイルに戻ってしまった。
そして、目をつぶる日本国民のこの状態こそが、日本を本当に沈没させる理由だった。破綻の日は刻々と近づいてきた……。
灰色総裁も、薔薇色・赤色副総裁も幻だった?
青色静氏は目を覚ました。「ああ、ひどい夢だったな。疲れているのかな」
青色氏は、翌日の日銀総裁就任を控え、疲労と寝不足から、自宅の風呂につかりながら、寝てしまったようだった。
「日本も俺もおぼれ死ぬわけにはいかない。やはり淡々と金融政策は非常事態の政策から、普通の緩和に戻さなければいけないな。市場に攻撃されても、メディアに攻撃されても、正しい政策を地味に淡々とかつ不屈の精神でやりきらないといけない」
再度、決意を固めた。
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