老子の教えは社会を生き抜くための謀略術だった 「あるがままでいい」という解釈は現代の誤解

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ここで、我々が現在目にする『老子』という書・思想の成立の流れを想像してみましょう。

『老子』が生まれるきっかけを作った「最初の老子」がどういう人物だったのか、それはよく分かりません。彼の素性はまったくの不明だからです。

ただ、確かなのは、彼は当時誰もが信じていた「もっと富を」「もっと名誉を」「もっと行動を」という価値観から精神的に距離をとり、無欲の境地に立つことのできた人物だったということです。

彼は、ある日、瞑想でもしていたのでしょうか、日々の出来事の奥に現実を司る「あるもの」があることを直感します。これこそ『老子』の教えの根幹である「道」。古の人々の信じた天の正体でした。

ただし、これはいまだ一種の神秘体験に過ぎず、実感はあっても言葉には言い表せないようなものでした。それがかろうじて謎めいた言葉とともに教えとして残された。

これが『老子』という書の始まりです。中に時折見られる難解で神秘的な記述はその名残なのです。

「道」の根本法則

そして、おそらくそうして残された「最初の老子」の言葉に触発された「続く老子たち」の一人が、「道」への直感を心に抱きつつ、当時の争いの絶えない日々の出来事を見つめていると、次のようなことが目に入ってきた。

「より多くを求めて行動する人間は、決まって苦しんでいる」

「練りに練ったはずの計略も、簡単に破綻する」

「強いはずの権力者が、簡単に殺されていく」

「無名の庶民の中にも、幸せそうな人がいる」

それらを見ていくうち、言い表しがたい「道」は、現実を支配する一つの具体的な法則となってあらわれてきます。それが、

「プラスの世界に生きる者にはマイナスが与えられ、マイナスの世界に生きる者にはプラスが与えられる」

というものでした。

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