アウディ「地熱発電の八幡平」でツアー実施の訳 地熱発電の厳しい現実とBEVシフトの相関性

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温泉そのものも地熱資源であるという意識も持ち、業界や立場を超えて、地域の未来について本気で取り組む姿勢が重要なのだ。そうした観点では、今回訪問した八幡平市は地熱エネルギーを有効利用している成功事例だと言えるだろう。

松川地熱発電所の地熱蒸気で造成した温水が、貯湯タンクを経由して総延長約46kmの配湯パイプで旅館やホテル、病院、熱水ハウスなど、約700軒に送られるシステムが構築されているのだ。

また、東日本大震災後を経験して再生可能エネルギーに対する世論が高まってきた中、2016年に松川地熱発電所創立50周年というタイミングで「八幡平市 地熱を活かしたまちづくりビジョン」を公表している。こうした八幡平市としての方針をきっかけに、地熱に関わるさまざまな事業が進みはじめているのだ。

たとえば、熱水ハウスでは八幡平スマートファームでIoT(モノのインターネット化)を活用して水耕栽培でバジルを生産しているほか、ジオファーム八幡平では引退した競走馬などを放牧し、地熱を利用した堆肥をつくり、それを利用したマッシュルームの生産を行っている。

引退した競走馬が放牧される牧場にて(筆者撮影)

こうした“八幡平地熱ブランド”の農産物は、ノーザングランデ八幡平など地元のレストランで味わうことができる。このように、松川地熱発電所は八幡平市内で多様な地域貢献をしている。

ノーザングランデ八幡平とそのスタッフ(筆者撮影)

電力の“地産地消”は実現せず

だが、今回視察した松尾八幡平地熱発電所、そして2024年4月に計画出力14900kWで運転を開始する予定の安比地熱発電所については、発電所から出た温水は地中に還元するシステムであるため、松川地熱発電所のように温水をそのまま活用する形の「地域貢献は不可能だと思っている」(佐々木市長)と言う。

現地で説明をする松尾八幡平地熱発電所の関係者(筆者撮影)

そのうえで、こうした新しい地熱発電所がどのようにして地域貢献するべきかは「国に対して要望していかなければならない」とも言う。さらに、八幡平市にとって根本的な課題がある。

実は、松川地熱発電所の電力量は、八幡平市の世帯数を超える約1万5000世帯分の消費電力に相当するのだが、電力会社との系統連系により電力の100%が市外に売電されている。

また、松尾八幡平地熱発電所の場合も同様に100%が市外に売電されているが、その中で電力の卸売りを行う企業等が「八幡平市の地熱由来の電力」として市内の体育館などの公共施設向けに電力を販売している。

つまり“発電から消費まで”の流れをその地域の“閉じたループ”で賄うという意味では、地産地消システムとしては成立していないと言えるのだ。

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