習近平の中国、「思想」が権力を正当化し維持する 「指導」と「監視」で14億人が無言になる国家
しかし、それは同時に独裁者の弱点でもある。習近平氏が思想に比重を置かざるをえなかったのは、2012年にトップに就任してから10年間、党幹部らの腐敗追及や軍事力の近代化などを除き、広く国民の支持を得るだけの成果を出せなかったことの裏返しでもある。
江沢民、胡錦涛氏ら習近平氏の前任者は、鄧小平氏の「改革開放路線」が実現させた急速な経済成長が生み出す富の分配という果実で自らの地位を正統化できた。習近平氏にはそうした成果が乏しい。ゆえに「社会主義現代化強国」「中華民族の偉大な復興」などという言葉でナショナリズムを煽るとともに思想性を強調しているのだろう。
「指導」から「監視」へ、14億人が無言となる
そして今、習近平氏の言う「党の指導」は形を変えて「党の監視」に変貌しつつある。情報化社会の最先端技術を駆使して中国は、国民一人ひとりの言動を把握し取り締まる監視社会の構築に邁進している。思想という枠をはめるとともに、テクノロジーを使ってすべての不満分子を抑え込むというこれまでに例のない統治システム構築への挑戦でもある。
民主主義は確かに多くの誤りを繰り返し、昨今は権威主義に対して劣勢にあると言われている。国民の一時的な気まぐれで政権が交代し、ポピュリズムが広がり、合理的な政策がゆがめられている。それでも権力中枢の意思決定に関する情報は開示され、国民はマスコミによって事実を知り、議論し、それぞれが自発的に判断することができる。選挙で間違った選択をした場合には反省することも可能だ。
一方、習近平氏にますます権力が集中する中国では、今まで以上に重要な政策が短時間で効率的に決定され実行されていくだろう。同時に、そうした政策に異論をはさむことが一層、困難になっていく。国民がいくら疑問や不満を持っても声を出すことができない。14億人が無言となる国家だ。仮に習近平主席の政策が素晴らしいものであっても、やはりこんな国には住みたくない。
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