習近平の中国、「思想」が権力を正当化し維持する 「指導」と「監視」で14億人が無言になる国家
今回の演説に同じ表現はなかった。代わりに「党の全面的指導を堅持し強化する。党中央の権威と集中的・統一的指導を断固守り、党の指導を党・国家事業の分野・各方面・各段階で徹底して、いざというときに党が終始全人民の最も頼れる大黒柱となるようにし、わが国の社会主義現代化強国建設の正しい方向を確保」と言及されている。党指導体制はいっそう、強化されていると読むことができる。
そのうえで「新時代の中国の特色ある社会主義」については、「人民至上を堅持」「全人民の共同富裕を目指す」「物質文明と精神文明のバランスの取れた現代化」「平和発展の道を歩む」「世界のためを思う」などというきれいな言葉が列挙されている。われわれが知ることのできる中国の現実を思い起こせば、こうした言葉が空疎に響くだけでなく、実際に中国が行っていることと正反対の内容が列挙されているように見える。
「思想」は最高権力者を正当化する
そもそも「新時代の中国の特色ある社会主義」と題する思想がなぜ中国の最高指導者には必要なのか。
日本をはじめ先進民主主義国での為政者の権力は、国民が参加する選挙の結果によって正統化される。選挙に勝つことで大統領や首相は国民から合法的に権力を付与され行使できる。もちろん失敗すれば次の選挙でその力を失うことになる。
これに対し中国では、ごく限られた党幹部が密室で権力闘争を繰り広げ、まったく不透明な形で最高権力者が選ばれる。今回も党大会終了後、習近平主席が6人を引き連れて登場するまで、誰が最高幹部になるのかはまったくわからなかった。
では中国の国家主席や党総書記という最高権力者の地位は何によって正統化されるのか。
その一つが「思想」なのだ。習近平氏が主張する思想が憲法や共産党規約に盛り込まれ権威づけられることによって、習近平氏の権力が正統化される。習近平氏がその思想に基づいて重要政策などを決定し実行しようとすることにだれも異論をはさめない。そればかりか、かつての文化大革命のように大衆を動員することも可能になる。
民主主義的な手続きによって権力を正統化できない権威主義国家の最高権力者にとって「思想」は自らを正統化し、権力基盤を強化するために不可欠な要素なのだ。
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