愛知の「激安うなぎ屋」特上鰻丼が2300円の秘密 「うなぎの与助」生の鰻を仕入れて店で串打ち

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「うな丼(いちまる)」2200円(筆者撮影)

大半の客は、前出の「うな丼(いちまる)」(2200円)、「ひつまぶし(特上)」(2300円)か、うなぎ4分の3を使用した「うな丼(しぶさん)」(1700円)、「ひつまぶし(上)」(1800円)を注文するという。

すべては激安価格を実現させるため

この価格で利益を出していくには、徹底したコスト削減しかない。店舗は都心ではテナント料が高額となるため、郊外の居抜き店舗を探した。東京と違い、名古屋のうなぎ屋ではお酒を飲む人は少なく、郊外にあることはデメリットにならないのだ。ただ、郊外ゆえに車で来店することを想定して、駐車場付きであることも物件の条件に加えた。

店内に入ると、あらかじめテーブルにお茶と紙おしぼりが置かれている。これはホールスタッフの仕事を簡素化するためだ。客を席に案内したら注文を受けて、料理を運ぶ。食べ終わったら食器を片付けて、会計をする。実にシンプルだ。

よく見ると、テーブルの面積もあまり広くはない。ひつまぶしのお盆がちょうどのるくらいである。正直言って、あまり居心地がよいとはいえない。

「安さをウリにしているので、お客さんを回転させないと利益が出ないのです。他にも個別会計をお断りしていたりと、お客さんにはご不便をおかけしていますが、すべては大衆価格を実現させるためです。ご理解いただければと思っています」(松井さん)

「うなぎの与助」稲沢店。17台分の駐車場も完備(筆者撮影)

松井さんが掲げた“働き方改革”だが、1店舗につき1人の社員が調理を担当し、ホールスタッフはアルバイトが担当している。それぞれの仕事を可能な限り簡素化している上に営業時間も11時〜14時(L.O.)、17時〜20時(L.O.)と短いので、残業することはほとんどない。サービス残業が常態化している飲食業界では「純白」と言ってもよいだろう。

「うなぎの割きと串打ちを1人でやろうとすると、1日約20キロくらいが限界なんです。今後はそれを補うためにセントラルキッチンの開設も視野に入れ、都心部で昼のみの間借り営業する店を増やしていこうと思っています。セントラルキッチンで串打ちしたうなぎを焼いて提供する形をとればよいので、働く側にとってもハードルは下がると思います。例えば、シングルマザーの方など求職困難者に雇用を提供できればと考えています」(松井さん)

寿司が高級店と大衆的な回転寿司に二極化したように、名古屋のうなぎ屋も同じ道を辿るだろう。激安のうなぎ屋の需要が高まれば、温め直すだけの加工品のレベルもますます上がるに違いない。うなぎ好きの筆者としては高級店も激安店もお互いに切磋琢磨して名古屋に新たなうなぎ文化が築かれていくことを期待している。

永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー

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ながや まさき / Masaki Nagaya

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。

地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに記事と写真を提供。

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