大幅下落でもアメリカの株価はまだ割安ではない 「割高感は解消」と楽観的になるのはまだ早い

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なぜなら、歴史的な急ピッチな金利上昇による引き締めは、経済全体に相応の悪影響をもたらし、2023年のアメリカ経済の縮小を厳しくするリスクが高いからだ。このリスクが株式市場に十分織り込まれていない可能性がある。

企業業績についての市場コンセンサスは、企業アナリストの予想が集計されているが、依然としてソフトランディングが前提となっているように思われる。

利上げで企業業績は大きく下方修正される懸念

もし2022年の高インフレが早期に鎮静化するなら、FRBの利上げペースも緩やかとなり、2023年に想定される経済の減速もマイルドで済む。だが、許容できない高インフレがFRBの想定よりも長引き、FRBはインフレ期待の安定を最優先せざるをえない状況が続いている。

パウエル議長などが発言する、「(利上げによる)相応の痛み」が今後顕在化する中で、多くの株式アナリストによる企業業績の想定は、今後大きく下方修正されるのではないか。これが、アメリカ株市場を下押しする要因になるとみられる。

もちろん、アメリカ経済の減速が明確になれば、FRBの引き締め政策が緩まり、2023年になれば利上げは停止されると筆者は予想している。利上げによる引き締め効果がでれば、インフレと経済指標の「両にらみ」でのFRBの政策対応が変わる。こうした意味で、「悪い経済指標」が株高要因として反応する局面になっている。

実際、アメリカ経済ではピークからは減速を示す指標もそれ相応に増えてきた。例えばISM製造業景況指数は50近傍まで低下している。ただ、いわゆる定量的なデータなどを含めると、FRBの高インフレ警戒を和らげるほどの、明確な減速には至っていない。

アメリカの高インフレの主たる要因になっている労働市場に関して見ると、直近9月分の雇用統計では、雇用者は前月比+26.3万人と、巡航速度を上回る高い伸びとなっている。過熱は収まっても、インフレの根幹にある「余熱が強い経済」がかなりの減速を示す経済指標が多数を占めるまでは、FRBの引き締め姿勢は揺るがないとみられる。

もし経済が減速する前に高インフレが落ち着くなら、FRBの政策対応は変わる可能性はある。だが「高インフレの落ち着き」を見定めるには、なお時間を要するように思われる。インフレの先行指標とされる、労働市場を中心とした経済指標が明確に減速しなければ、今後のFRBの政策姿勢には変化がない可能性が高いのではないか。

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