日本の賃金上昇をストップさせた馴れ合いのワナ 企業と消費者の間の妥協が首をしめる結果に

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日本には価格が動かない品目がたくさんあるという、先ほどの話を講演会などで話すと、「日本は昔からそうだった」という意見がかならず返ってきます。日本の企業は顧客を大事にするので原価が多少上がっても耐える、それは国民性に根差すものだというのです。しかしデータを見る限り、昔からそうだった、これは国民性だというのは、正しくありません。

下の図は、モノの価格、サービスの価格、そして賃金がこれまでどのように推移してきたかを示したものです。比較のために米国の同じグラフも下に示してあります。図は1973年から始まっていますが、これは変動相場制に移行した年です。固定相場制と変動相場制では物価の決まり方が異なるので、ここでは変動相場制の時期に絞っています。

モノ価格、サービス価格、賃金のいずれも、1973年から95年ごろまでは右肩上がりです。米国の図と比べても、右肩上がりの傾きは遜色なさそうです。つまり、それまで日本の価格は(そして賃金も)しっかり動いていたのです。

1970年代や80年代のデータを使って渡辺チャートを描いてみると、先ほど見たような、ゼロ%のところに高いピークがそびえたつ図にはなりません。ゼロ%が突出して多いということはまったくなく、ピークは2〜3%の近辺にあり、米欧のデータを使って描いた図と同じ形状をしています。このことから、昔からそうだった、国民性だからといった説明は的外れであると言えるでしょう。

ところが、1990年代後半以降は、モノ価格、サービス価格、賃金のどれもが、それまでとはまったく異なる動きに変わります。あたかも定規を当てて水平線を描いたかのように、いっさいの動きが止まってしまうのです。これこそが、慢性デフレです。

日本のグラフの異様さは、下の米国のものと比較すると一目瞭然です。米国は1995年以降も、それまでとほぼ同じ右肩上がりを続けています。米国以外について同じ図を描いてみても、日本のような奇妙な動きを見せる国はひとつもありません。

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