日本の賃金上昇をストップさせた馴れ合いのワナ 企業と消費者の間の妥協が首をしめる結果に
下の図は2022年6月の数字を使ってそのチャートを描いたものです。横軸は品目別のインフレ率です。たとえばプラス20%というのはその品目が20%上昇したことを、マイナス20%はその品目が20%下落したことを意味します。縦軸は、その品目が600品目全体に占める割合を示しています。
割合とは、その品目が何個あるかという「個数」ではなく、その品目の消費金額が全体の消費金額に占める割合にしています。その品目が私たちの生活で重要な品目で、たくさんの金額をそれに費やしている場合は、縦軸方向の棒の高さが高くなります。
このチャートから読み取れる第一のことは、高インフレの進行です。ガソリンなどエネルギー関連の品目が10%を超す高い伸びとなっています。これは、海外発のインフレが国境を越えて侵入してきているということを示しています。本稿ではこれを「急性インフレ」と呼ぶことにします。
このチャートのもうひとつの注目点は、横軸のゼロ%の近辺に鋭角的にそびえたつピークです。これは多くの品目がインフレ率ゼロの近辺に集中していることを意味しています。正確に計算すると、私たちが日常的に購入するモノ・サービスのうち約4割がゼロ近辺にあることがわかります。
言い換えれば、日本の企業の約4割は昨年と同じ値札をつけているということです。私はこれを日本企業の「価格据え置き慣行」と呼んでいます。この現象は1990年代後半から観察されるようになったのですが、それがいまなお続いており、日本経済の慢性的な病となっています。これを「慢性デフレ」と呼ぶことにします。
米欧のデータを使って同じ図を描いてみると、急性インフレは日本と同じように現れますが、ゼロ%にそびえたつピークは見られません。つまり、慢性デフレは日本に特有の現象だということです。
先ほど述べた、日本のインフレ率が最下位であることや価格転嫁ができないことは、慢性デフレと密接な関係にあります。約4割の品目がゼロ%なのですから、残りの6割がいくら頑張っても全体としてのインフレ率が顕著に高まることは期待できません。だからこそ万年「最下位」です。
また、輸入物価が上がったとしても、約4割の品目はゼロ%で、転嫁率もゼロです。それゆえ、全体としての平均的な転嫁率も低いのです。このように、日本の物価に見られる奇妙さの多くは、ゼロ%の品目がたくさんあるということに起因しています。
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