日本の賃金上昇をストップさせた馴れ合いのワナ 企業と消費者の間の妥協が首をしめる結果に

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このように、日本は「急性インフレ」と「慢性デフレ」という2つの病を抱えることを、データは示しています。こうした日本の問題の複雑さは、米国と比較すると、よりはっきりと見えてきます。

米国の病は急性インフレだけなので、その治療に専念すればよいことになります。インフレが問題であれば、治療は金融引き締めです。もちろん、どのように、どの程度引き締めるのかという技術的な難しさや、引き締めを嫌がる勢力をどう説得するかという政治的な難しさはあります。しかし、少なくとも原理的にはやるべきことは単純で、貨幣量を減らし金利を上げる。これに尽きます。

実際、米国はその治療をすでに実行に移しています。金融の世界はグローバルにつながっているので、各国の中央銀行が行う金融政策は、多くの場合は同じ方向を向くようになります。

日本は金融引き締めに転じるべきか

ところが、2022年現在、米国が引き締めを始めているのに対し、日本は金融緩和を維持しており、政策の方向が正反対を向く状態となっています。その結果、為替相場が円安方向に不安定化するなど、不都合を引き起こしています。こうしたことを踏まえれば、米国と同じく日本も引き締めに転じるべきという最近よく耳にする主張にも、たしかに一理あると言えるでしょう。

たしかに、日本も米国と同じように引き締めを始めれば、急性インフレという病にはよい効果が期待できます。しかし同時に、引き締めにともない生産や雇用は悪化するので、消費者は生活防衛に走ることになるでしょう。そのとき消費者は、いまよりもさらに価格に敏感になります。

そうすると企業は、価格の引き上げによって顧客を失うリスクが高まったと認識し、原価が上昇しても価格を据え置くという姿勢をさらに強めることでしょう。その結果、先ほどの図のゼロ近辺の品目はさらに増加し、そびえたつピークはもっと高くなります。

このように、金融引き締めは急性インフレという病は癒すことができますが、同時に、日本が長年患ってきている病、慢性デフレをさらに悪化させてしまうことにもなるのです。

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