ビジネス現場でこそ役に立つ「人文学」の学び直し 人気ポッドキャスト「コテンラジオ」設立者に聞く
例えばビジョンを語るには、ウェルビーイングや幸せについて考える必要性がある。このときたかだか二十数年ぐらいの人生経験だけで考えるのと、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』や、陽明学(儒教)の「知行合一」や「致良知」といった概念、仏教の教えなどまで知ったうえで考えるのでは明らかに知性のレベルが違う。この違いを理解できる人が少ないのがもどかしかった。それはベンチャー企業で働く人の多くが、経営やマーケティングの勉強はしていても人文知には手をつけていないからだ。
──リベラルアーツと人文学の違いはどこにありますか。
リベラルアーツはHOWを問わず、WHYとWHATを探究している学問の総称で、自然科学や生命科学も含まれる。人文学はより範囲が狭く、自然科学などは含まない。人文学の「親玉」で、キング的な存在が哲学。それ以外に文学、宗教学、社会学、人類学などがある。私が人文学に重点を置いているのは、いまだ多くの人に重要性が認識されていないからだ。
重要性が増す人文学
日本に住むほとんどの人が、自分で自分の人生を決められる時代を生きている。さまざまな権利が認められている世の中だが、裏を返せばサルトルが「人間は自由の刑に処せられている」と言ったように、自由であるがゆえに私たちはその都度、人生や幸せについて深く考えなければいけない。もう万人が幸せになるようなモデルケースはない。考える手だてとして、あるいは観点の提供として、人文学の重要性が増していると思う。
海外に出て初めて日本がどのような国かわかることがある。同じように、現代しか生きていない私たちは歴史を勉強しない限り、今がどのような時代なのかをあまり理解できない。そのため、歴史を学んでほかの時代との違いを知れば、現代社会を俯瞰できるようになる。
──40〜50代が人文学を学ぶポイントは。
40代、50代の人が生まれ育った時代と現代とでは、環境も人々の意識もずいぶん変わった。今までの自分たちの思考やフレームワークの外にあって、理解しづらいことが結構あると思う。だが、ビジネスの現場では、自身の常識の外側にある考えに触れ、理解しようとする姿勢が問われる。その際、役に立つのが人文学だ。人文学の問いにはそもそも答えがない。わからないが、向き合う。整理できないが、立ち向かう、といった知的体力が求められる。考えて、探究し続ける「知のマラソン」をしてほしい。
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