成長か停滞か、「世界の鉄道ビジネス」が向かう先 「イノトランス」で見えた環境、高速化、米中関係

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高速鉄道でいえば、輸送量を2015年比で2030年までに2倍、2050年までに3倍にするのが目標だ。「ブリュッセルとベルリンが高速鉄道で結ばれれば3時間で移動できるようになり、多くの人が航空機から鉄道にシフトするはず」(バレアン委員)。

しかし、その取り組みは遅々として進まない。信号などのインフラが国により異なるため国境越えが支障になるのだ。バレアン委員は目の前の鉄道会社やメーカーのトップたちを前に「誰かが自発的に最新技術を鉄道に搭載してくれるわけではない。皆さんが野心的に鉄道への投資を行うことが必要だ」と檄を飛ばした。

時代は「スピード競争より環境」

会場を1周すると、日本にいてはわからない世界の鉄道業界のトレンドが見えてくる。これまでのイノトランスでは時速350km級の速度性能を誇る営業用高速列車が会場の華となっていたが、今回は例年と比べると目立たない。2023年からベルリン―アムステルダム間で運行を予定するドイツ鉄道「ICE L」用の客車1両が展示されたが、その最高速度は時速230kmにとどまる。かつてメーカー各社が時速350km級の車両を競って出展したようなスピード至上主義の時代は過ぎ去った。

代わって今回の屋外展示では多くの車両が環境性能の高さをアピールする。ドイツのシーメンスは水素燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッド車両「ミレオプラスH」を展示、2024年にベルリン郊外での運行を計画する。「これが公共交通のあるべき姿。気候変動問題に対する私たちの答えだ」とプロジェクトマネジャーのマシアス・ベルクホーファ氏が誇らしげに語る。

Mireo Plus H
シーメンスが展示した燃料電池と蓄電池搭載のハイブリッド車「ミレオプラスH」(記者撮影)

もっとも、水素燃料電池車両ではアルストムが先行する。2016年のイノトランスで「コラディア・アイリント」を初公開、2018年にはいち早くドイツで営業運行を開始している。今回のイノトランスでも「コラディア・ストリーム」という水素燃料電池や蓄電池を搭載した電車を公開。水素燃料電池車両の分野で今回ようやく両雄が並び立った。

スイスのシュタドラーもロサンゼルス郊外で運行を計画する「フリートH2」という水素電池列車を展示した。また、ポーランドの車両メーカー、ペサも新開発の水素燃料電池機関車を公開した。

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