西九州新幹線、なぜ「離れ小島」で開業したのか 佐世保経由やフリーゲージ、これまでの経緯は?

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九州新幹線西九州ルートは、東海道新幹線の成功を受けて全国各地を新幹線で結ぶ構想が浮上する中で、現在の九州新幹線(博多―鹿児島中央間)や北海道新幹線、北陸新幹線などとともに整備計画が決定された5路線のうちの1つだ。

建設に至る経緯に大きく関わっているのが、1969年に進水した原子力船「むつ」の存在だ。むつはその名の通り青森県むつ市の大湊港を母港としていたが、洋上での放射線漏れ事故で地元が帰港を拒否。そこで受け入れを表明したのが長崎県だった。県は1978年、佐世保で同船を受け入れる代わりに、新幹線の工事着工が「ほかの4路線に遅れないこと」とする念書を自民党と取り交わした。

このような事情もあり、1985年に当時の国鉄が示した案は現在の西九州新幹線とは異なり、佐世保市の早岐(はいき)を経由するルートだった。だが1987年、発足直後のJR九州は同ルートについて、建設費を全額公費負担しても赤字が生じるとの見解を表明。翌1988年の政府・与党申し合わせでは着工優先順位が明示されず、長崎への新幹線は整備方策の再検討を迫られた。そこで建設費や投資効果などを踏まえ、武雄から佐世保市を通らずに大村、諫早を経て長崎へ至る短絡ルート案が浮上。1992年に大枠が固まった。

スーパー特急からFGTへ

この際の案は、武雄温泉―長崎間は東海道・山陽新幹線などと同じ「フル規格新幹線」のインフラを整備したうえで線路は在来線と同じ幅で敷設し、特急列車を高速で走らせる「スーパー特急」方式だった。

その後浮上したのが、線路幅の違う新幹線と在来線を直通できる「フリーゲージトレイン」(FGT)の導入だった。新たに整備する区間をフル規格新幹線とし、博多―新鳥栖間は九州新幹線(鹿児島ルート)、新鳥栖―武雄温泉間は在来線を経由して運行するという計画だ。

フリーゲージトレイン試験車
西九州ルートへの導入を念頭に開発されたフリーゲージトレイン(FGT)の第3次試験車(記者撮影)

FGTは国が1990年代から開発を進めており、2004年の整備新幹線に関する政府・与党合意で西九州ルート着工の際に導入を目指すとされた。試験車両による技術開発は進み、2014年には「車両の安全な走行に影響を及ぼす軌間可変機構の不具合や著しい部品摩耗等は認められないことから、軌間可変台車の基本的な耐久性能の確保に目処がついたと考えられる」との評価を得ていた。

同年4月には、西九州ルートへの導入を念頭として従来の試験車両よりも営業用列車に近い形の第3次試験車が登場。新幹線と在来線を直通して軌間の変換を繰り返しながら60万kmを走る耐久試験を約2年半かけて行ったうえで実用化を目指す予定だった。だが、2014年秋に「耐久走行試験」を開始したFGTは車軸の摩耗などの問題が発生し、約1カ月で中断に追い込まれた。

一方で、政府・与党は2015年1月、西九州ルートについて2022年度の開業予定から可能な限り前倒しを目指すことを決定。翌2016年には、FGTの開発難航を受けて開業時は武雄温泉駅で新幹線と在来線特急を乗り継ぐ「リレー方式」とすることで長崎・佐賀両県やJR、与党検討委など6者が合意した。

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