西九州新幹線、なぜ「離れ小島」で開業したのか 佐世保経由やフリーゲージ、これまでの経緯は?

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FGTは台車に改良を加えるなどして2016年末から実施した走行試験でも摩耗が見つかり、コスト面での課題も浮上。新幹線の運行を担うことになるJR九州は2017年夏、FGTによる西九州ルートの運営は困難と表明した。翌2018年夏には、与党の西九州ルートに関する検討委も導入を断念。与党検討委は2019年夏、FGTによって在来線経由で運行するとしてきた新鳥栖―武雄温泉間も含め、全線フル規格での整備が適当との方針を打ち出した。

だが、新鳥栖―武雄温泉間の地元である佐賀県は、同区間がFGTによる在来線経由であることを前提として西九州ルートの整備に合意してきた経緯があり、そもそも新幹線の整備を求めていないというスタンスだ。このため同区間は「未着工」なのではなく、整備方式そのものが決まっていない。

佐賀県にとって、フル規格はメリットが乏しい一方でコストがかさむ。博多―佐賀間は現状の在来線特急で約35分。フル規格の新幹線を建設しても時間短縮効果は少ないが、整備新幹線のスキームでは地元自治体の建設費用負担が必要になる。さらに、もしフル規格新幹線を通した場合は、並行する在来線のあり方も課題となる。

並行在来線も「異例」

西九州新幹線は離れ小島の路線であるだけでなく、「並行在来線」についても異例の新幹線だ。整備新幹線は、原則として開業後は並行する在来線の経営がJRから切り離される。ほかの新幹線では、分離後の路線は第三セクターが運行しており、九州新幹線長崎ルートの場合は鹿児島本線の八代―川内間を熊本県や鹿児島県などが出資する三セクの「肥薩おれんじ鉄道」が引き継いだ。

だが、西九州新幹線の並行在来線となる長崎本線の江北(旧肥前山口)―諫早間は、今後も列車の運行をJR九州が担う。新幹線のルートとは大きく離れている一方、在来線の減便が予想されることからメリットのない佐賀県の鹿島市や江北町が経営分離に反対したためだ。

整備新幹線着工の条件の1つは「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の合意」だ。そこで2007年12月にJR九州と佐賀、長崎両県は、肥前山口―諫早間の施設を両県が保有し、JR九州が継続して運行する「上下分離方式」で合意。沿線自治体から経営分離の合意を得ずに新幹線を着工するための方策だった。

特急「かもめ」が走っていた同区間は9月23日以降、肥前浜―諫早間が非電化となり、博多からの特急は肥前鹿島止まりに。本数も大幅に減る。在来線「かもめ」最終日の夜、肥前鹿島駅に子ども2人と最終列車を見送りに来た30代の女性は「(特急かもめがなくなると)長崎や福岡は車で行くことになると思う」。長年特急を利用してきたという70代の男性は「率直に言って新幹線にはクエスチョンマークが付く」と漏らした。

肥前鹿島駅「かもめ」見送り
長崎本線の肥前鹿島駅で最後の上り特急「かもめ」を見送る人々=2022年9月22日(記者撮影)

国交省は9月22日、JR九州が西九州新幹線の施設を所有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)に今後30年間支払う施設の使用料「貸付料」を年間5億1000万円と発表した。貸付料は、新幹線開業で予想される収益増加分を基に算出されている。

政治的な経緯やルートの変更、FGTの技術的問題、そして並行在来線の運行体制と、複雑な経緯をたどってきた西九州新幹線。整備計画決定から半世紀を経て開業はしたものの、数多くの課題を抱えての出発となる。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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