犯罪者の金を吸い込んだ「トランプ物件」の実態 汚い金が大統領選資金へと変わるカラクリ

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もう1人似たような人物として、エドゥアルド・ネクタロフの名前があげられる。世紀の境目、コロンビアのマネーロンダリングを調べていた財務省の捜査線上に中心人物として浮上してきた。

2004年に殺し屋に処刑される前、ネクタロフは数百万ドルの金を安全に保管できると考えたビルに直接投資していた。「トランプ・ワールド・タワー」である(ネクタロフが所有していた部屋の真上の所有者がケリーアン・コンウェイで、トランプの大統領顧問として”迷言”(トランプ陣営の虚偽発言を擁護するために発した「alternative facts」という言葉)で知られるようになる。

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さらにヴャチェスラーフ・イヴァニコーフという、無精髭を生やしたシベリアの刑務所の元服役囚がいた。この男もモギレヴィッチの盟友の1人で、1992年にアメリカに渡り、ロシアン・マフィアの組織強化に努めた。

イヴァニコーフはFBIの捜査官の目を何年も逃れてきたが、それはFBIに手配されてからも変わらなかった。しかし、FBIも最後には彼の拠点を突き止める。「トランプ・タワー」だった。イヴァニコーフはモスクワの路上で銃撃を受けて死亡するが、「トランプ・タワー」こそ生前のイヴァニコーフが世界的な犯罪組織を指揮する拠点として選んだ場所だった。

怪しげなロシア人とトランプとの金銭的なつながりは、ホテルやタワーなどの高層建築を経由したものばかりではない点を忘れてはならないだろう。2008年、トランプはフロリダの豪邸をロシアの新興財閥の1人、ドミトリー・リボロフレフに売却している。この取引でトランプは5400万ドルという途方もない利益を得ていた。アメリカ国内の住宅販売としては、当時もっとも高額な取引だった。

トランプには、自分が本当は誰の金を処理するために協力しているのか、その正体を十分見分けることはできたようだ。トランプは後年、顧問弁護士に向かって、「オリガルヒはプーチンの代役にすぎない」と口にしている。

ケイシー・ミシェル ジャーナリスト

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Casey Michel

ニューヨークを拠点に活動するアメリカ人ジャーナリスト。ライス大学を経て、コロンビア大学でロシア・東欧・ユーラシアに関する研究で修士号を取得。マネーロンダリングをはじめオフショア口座、ペーパーカンパニー、国外からの政治介入を関する調査報道を行い、『ワシントン・ポスト』『フォーリン・アフェアーズ』『アトランティック』などの主要メディアに寄稿している。ワシントンの非営利シンクタンクであるハドソン研究所のクレプトクラシー・イニシアティブの諮問委員会のメンバーでもある。

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