犯罪者の金を吸い込んだ「トランプ物件」の実態 汚い金が大統領選資金へと変わるカラクリ

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これこそまさにアメリカン・クレプトクラシーの縮図にほかならない。たった1人の人物によって立ち上げられたクレプトクラシーであり、その人物はこうした疑わしいビジネスで得た利益を使い、最終的には自分を大統領へと押し上げていく軍資金を築いていった。

デュヴァリエの汚い金を吸い込んでいたペーパーカンパニーのように、トランプの物件を購入していたダミー会社のなかには、パナマや英領バージン諸島で登記された会社もあった。しかし、怪しい買い手の大半は、アメリカで登記したダミー会社を徹底的に利用してこの国の不動産を購入していた。

たとえば、約75件の物件の購入に関して、デラウェア州(アメリカ国内にありながらタックスヘブンとして知られる州)で登記されたペーパーカンパニーがそれぞれ関与し、およそ1億3000万ドルの資金の流れを完全に隠しおおせていた。

怪しい取引の実態はいまだ闇の中

トランプ自身、デラウェア州が提供するサービスと無縁だったわけではない。会社の必要に応じて何度もデラウェアを頼みにしており、事業計画やいわゆる”租税極小化”のために378社もの会社をここで登記している(のちにトランプ本人も会社は「山とある」と認めているが、これらのほかに彼が個人的に関連しているペーパーカンパニーがどのくらい存在するのかは誰にもわからない)。さらにデラウェア州のほかの多くのペーパーカンパニーとも何度か関係が指摘されてきた。そのなかには名目上はトランプと無縁のダミー会社もある。

トランプに関係する不動産を匿名で購入した何百、何千という人間の身元は、ペーパーカンパニーの守秘性に包まれ、いまだにはっきりしていないのが現状だ。それでもデュヴァリエのように、数名の名前が秘密主義のカーテンの向こうから垣間見えてきたのは、大半が裁判で名前が明らかにされたせいでもあるが、共同経営者や新しい顧客を世間に吹聴したいというトランプ本人のせいでもあった。相手の背景や略奪された財との関連性、それが明らかな犯罪であってもトランプはおかまいなしだった。

デービッド・ボガティンもそうだった。ボガティンは元ソ連軍の退役軍人で、その後、ロシアの組織犯罪の首謀者としてブルックリンで詐欺を働いていたことで知られる。ボガティンはセミオン・モギレヴィッチの盟友としても活動していた。モギレヴィッチは病的なほど肥満した人物で、おそらく全世界のロシアン・マフィアのリーダーとも言える存在だった。犯罪で得た金の置き場所を探していたボガティンは、格好な場所に目をつけていた。「トランプ・タワー」である。このビルで複数の部屋を購入し、なんのおとがめもないまま未来の大統領の懐に金を落とした。

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