アベノミクスで、失業率は低下していない 日本経済の構造変化を無視する「リフレ派」

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なぜなら、失業率の低下や有効求人倍率の上昇の背景には、少子高齢化に伴う労働力人口の減少という、誰もが知っている事実がはっきりと横たわっているからです。

日本の労働力人口は減少、人手不足は当たり前

日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年の8726万人をピークに少しずつ減少してきましたが、2014年の段階ではそれが7784万人にまで減少しています。特に2012年から2014年の3年間は団塊世代が65歳に達するようになり、その減少幅が大幅に拡大しているのです。

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生産年齢人口は1995年の8276万人をピークに2014年には7784万人まで減少

2012年の労働力人口が17万人の減少であるのに対して、2013年と2014年は117万人も減少し、2015年も同じくらい減少する見通しにあるわけです。

2013年の労働力人口が前年比で1.45%、2014年が1.48%減少しているのですから、人手不足になるのは当然のことと言えるでしょう。もともと日本の人口構造の推移からして、2012年以降は失業率が徐々に低下し、有効求人倍率が上昇するのはわかっていたわけです。

日本の基本的な構造変化に目を向ければ、「経済が好調ゆえに有効求人倍率が高くなった」というのは、間違った見解であるということが、簡単に判明してしまうのです。

一般の人々のなかにも「アベノミクスによって失業率が低下した」と信じてしまう人がいるのは、やはり、日本の経済構造の変化を無視するとともに、経済の権威を後ろ盾にした思考の停止が起こっていると考えられます(思考の停止については、2月2日の記事を参照)。

幅広い資料やデータを深く検証することなく、「クルーグマン(米プリンストン大学教授)が提唱するリフレの考え方は正しいに違いない」と信じ込んでしまっているのです。要するに、物事を俯瞰的に見ることをせずに、「景気が良くなる=失業率が低下する」というステレオタイプな見方しかできなくなっているわけです。

日本のリフレを支持する経済学者にとって、クルーグマンやバーナンキ(前FRB議長)は「絶対的な権威」であることは間違いありません。

こうした経済学者が権威を信奉するあまり、議論の際の説明で「クルーグマンは……といっている」「バーナンキによれば……である」「世界標準では……である」といった言い回しを多用するからです。

これは決して印象論ではなく、私自身が経験していることを言っているにすぎません。たとえば、前回の記事で述べたような事例について、「それでもインフレ目標は正しいのでしょうか?」と質問すると、答えに窮して「僕が薫陶を受けたポール・クルーグマンはそう言っていた」と言い出す始末なのです。

クルーグマンの言っていることが、現実に起こっていることと照らし合わせて、本当に正しいか否かについての議論を避けようとするわけです。

次ページ「絶対的権威」の発言自体を重要視する「異常さ」
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