HIS、ハウステンボス売却でも楽観視できない事情 USJ再建の森岡毅氏「刀」がハウステンボス支援

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旅行大手HISが傘下のテーマパーク「ハウステンボス」をアジア系投資ファンド・PAGに666億円で売却する。財務は大きく改善するが、危機対応がこれで終わるわけではなさそうだ。

テーマパーク・ハウステンボスの写真
アジア系投資ファンドへの売却が決まったハウステンボス。USJを再建した森岡氏はどんな成長戦略を描くのか(写真:Bloomberg)

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「売却すれば700億~800億円になる」――。かつて澤田秀雄会長が語っていたハウステンボスの評価は、1000億円になった。

8月30日、旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)は傘下のテーマパーク「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)をアジア系投資ファンド・PAGに売却すると発表した。

全体の評価額は1000億円。株式の66.67%を保有するHISは9月に666億円で譲渡する。今回の取引で、HISは646億円の関係会社株式売却益を単体決算で計上予定。連結決算での影響額は今後精査するという。

経営不振だったハウステンボスは2010年にHIS傘下に入り、澤田会長主導で再生、黒字体質を維持してきた。ただし、業績自体は2015年をピークに伸び悩み、HISもコロナ前から売却を画策。コロナ禍でも澤田会長が売却する可能性について言及してきた。

譲渡先となるPAGは日本で25年以上の投資実績があり、2013年にはテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を運営するユー・エス・ジェイに出資。ハウステンボスについてはアトラクション導入やイベントの投資などで集客力向上を図る。ブランディングや運営は、USJ再建の立役者・森岡毅氏がCEOを務める株式会社刀が支援すると発表された。

刀は昨年、西武園ゆうえんちのリニューアルプロジェクトを主導。100億円と限られた予算で昭和レトロをテーマに同園を再構築した実績がある。

あぐらをかける状況ではない

コロナ禍のHISは、海外旅行をはじめ、ホテル、電力小売り事業でも極度の苦戦を強いられた。早期退職などの人員削減は避けてきたが、海外旅行の本格復活を待てず、大赤字の電力小売り事業を2022年5月に売却。ハウステンボスやホテルも事業売却を含めた検討に入っていた。

今回の取引は大きな意味を持つ。まずはハウステンボスの評価だ。澤田会長は2020年12月の決算説明会で「売却すれば(全体で)700億~800億円になる」と言及していた。このときより200億円近くプラス評価がなされたこともあり、売却を決めている。「われわれの経営に対する評価。満足して契約している」(HISのIR室)。

財務の改善効果は大きい。4月末の純資産は454億円(前年同期641億円)。自己資本比率は5.8%まで落ち込んでいた。直近の四半期(2022年2~4月)は電力小売りの大幅な苦戦もあり、160億円の営業赤字と厳しいが、電力小売り事業の売却で、今後は大幅に赤字が縮小される見通し。売却益で600億円近く自己資本が積み上がれば、当面の債務超過リスクは避けられる。

他方、手元資金は4月末に1016億円あり、コミットメントラインの330億円と合わせて約24カ月分の運転資金を確保していた。もともと資金繰りの懸念は少ない状態だったが、こちらも一段と積み増すことになる。

当面、債務超過や資金面の懸念はなくなった。ただし、本業が本格的に復活できていないこともあり、銀行サイドは危機を脱したとは判断していないようだ。HISも危機対応を終えたとは考えていない。

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