前代未聞の観光不況を招いたコロナ禍。有力ホテルチェーンの藤田観光が直面した経営危機の舞台裏に迫った。
「先祖から受け継いだ椿山荘、太閤園、箱根はわれわれのアイデンティティー。ギリギリまで売却は考えたくなかった――」
「ホテル椿山荘東京」などを運営する藤田観光の野﨑浩之取締役(財務担当)は、2021年3月に宴会場「太閤園」を創価学会へ譲渡した取引について、こう振り返る。
前代未聞の観光不況を招いたコロナ禍。客足が一気に引いたホテル各社が直面したのが、資金繰りの懸念だ。業績悪化で毀損した財務への対応や早期退職などのリストラ、資産売却も珍しくはなかった。
国内有数のホテルチェーンである藤田観光も、こうした企業の1つ。文字どおり企業の存続を賭けた危機対応と財務戦略に奔走し、賃金カットや従業員315人の早期退職、資産売却も実行するほどだった。
舞台裏ではどのような正念場があったのか。見えてきたのは、スピード感が求められる緊急対応の現場だった。
「訪日客が来ない」どころではない
2020年1月のことだ。伊勢宜弘社長は振り返る。「海外でコロナ感染が広がっていると聞いたが、パンデミックになるとは思ってもいなかった。SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)のように一過性で終わるものだと考えていた」。
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