権力握った大久保利通でも頭抱えた実力者の正体 「まるで子ども」と批判しながら無視できず

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結局、木戸孝允が間に入り、大久保は辞さずに終わった。だが、大久保にとっては、大きなターニングポイントだったに違いない。

自分を倒そうとするならば、遠慮はしない――。その後、久光は板垣退助と結託して、政府の方針に抗うが、このとき清との交渉も成し遂げた大久保には、勢いがあった。明治8年、大久保は板垣もろとも久光を政権外へと追い出している。

左大臣を辞職後、久光は鹿児島に帰ると、歴史書の編さんに着手する。もともと歴史好きだったので、よほど没頭したようだ。久光の執筆活動は西南戦争中も続行されたという。

国家を背負う覚悟はあるか?

政敵の江藤新平、大国の清、そして、恩人で頭が上がらなかった久光……。厄介な相手に大久保は真正面からぶつかっていった。

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自分1人で背負っていく――そんな政治家としての姿勢は、大久保のこんな言葉にもよく現れている。

「われ1人を持って国家を維持するという覚悟がなければ、堅忍耐久して大志を成すことなどできない」

やるとなれば徹底的にやる。それが、時に大久保が冷酷といわれるゆえんかもしれない。しかし、その決断と実行力こそが、新しい時代を構築するには、もっとも求められることだった。

(第47回につづく)

【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
瀧井一博『大久保利通: 「知」を結ぶ指導者』 (新潮選書)
清沢洌『外政家としての大久保利通』 (中公文庫)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
鈴木鶴子『江藤新平と明治維新』(朝日新聞社)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。

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