一方、実体経済においては、企業も個人も、金融政策とは無縁に淡々と経済活動を行っていた。その結果、リーマンショック後、新しい経済の現実に対応できた企業は、ここに来て業績が目に見えて伸びており、引く手あまたの働き手である個人が、数多く存在するようになっている。
逆に、新しい現実に対応せず、過去の構造、信念、イメージに固執した企業は衰退が顕著となっている。
世の中は、変わりつつある。いや変わったのだ。
金融市場と関係なく、実体経済は独自に変わったのであり、金融市場は無縁であり、いわば実体経済に見放されたのである。
なぜ金融市場の価格が動くのに、問題にならないのか
しかし、このところ、金融市場は大きく動いている。リーマンショック前なら、いやリーマンショック後ですら、米国のダウ平均株価が1日で300ドル動くことなどほとんどなかった。しかし、今では、これは「日常的な」事件となり、1日の振れ幅がプラス100ドルからマイナス100ドルなど、大きく動くこともごく普通の出来事になった。
では、なぜ、最近の金融市場では株価が大きく変動するのか。激しく動くようになったのか。
普通に考えれば、市場が動くということは、経済が動いていることを示す。つまり、実体経済の変動を反映して金融市場の資産価格が変動しているはずだ。あるいは、実体経済におけるリスクの変動を踏まえて、それが実現する前に先取りして、金融商品価格の変化として表現しているのだ。
したがって、金融市場価格が動くことは、実体経済においても大きな事件のはずなのだが、いまやそうでなくなっているのである。なぜか。
金融市場における資産価格とは、リスクの価格である。金融資産とは、自分が使うためでなく、将来売るために保有する財のことであり、それを複数の経済主体で値付けをするのが金融市場である。
売る相手がいなければ、価格は存在しない。相手がいなければ、自分にとっての資産価値だけが意味を持ち、価格は問題にならない。そして、一度きりの相対取引なら市場にはならない。市場が成立するためには、複数の買い手がいて、継続的に取引が起きる必要がある。そして、資産の買い手は、次には売り手となり、買い手を探し、買い手を求めるのである。
教科書的には、金融資産の価格は、将来のその資産からのキャッシュフローとそのキャッシュフローが実現するリスクから決まる。
例えば、債券であれば、付随する利子がきちんと支払われるかどうか、元本が戻ってくるかどうかがリスクであるが、同時に、その利子あるいは元本の価値が変化することもリスクである。リスクとは将来の変動であるから、この債券を保有する、あるいは売却することにより得られる収益額の変動が、この債券のリスクである。
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