インフレ加速の先に見える世界秩序の大変化 アメリカがウクライナ戦争で妥協できない理由

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しかし、1973年に世界を襲った石油ショックは成長インフレではなかった。石油という天然資源の供給量が減少したことでエネルギー資源が高騰し、それがすべての物価に波及していった。石油資源を供給する産油国は、先進国の外にある。中東諸国が、石油を生産調整したことで、先進国のエネルギー供給量は一気に減少した。

石油を求めて先進国は狂奔し、それを見ていた人々は石油とは直接関係のない商品まで買い占め、物不足現象が起き、物価は一気に上昇した。幸い、石油ショックの原因となった第4次中東戦争(1973年10月6~24日)が長引かなかったことで、石油ショックは物価上昇をそれほど引き起こさなかったが、長引いていたらどうなったかわからない。

GDPの貨幣的成長がはらむ致命的欠点

今回の状況は、これまでとはかなり違う。確かに戦争がエネルギー生産国で起これば供給が絶え、インフレが起こる。50年前に比べて、世界がグローバル化し、石油などのエネルギー資源だけでなくあらゆる産業製品が後進諸国に分散しているという決定的な違いもある。

皮肉なことだが、1991年に冷戦が終了したのと同時に起こったグローバル化は、世界の経済を相互に、かつ密接に結びつけることになった。冷戦下では自国生産を優先するという防衛上の必要性があったのだが、それが不要となったことで、先進諸国はより安い賃金、原料、エネルギー資源を求めて後進諸国に工場を建て、そこからより安い製品を輸入することで、コストを大幅に下げた。

自国にある石炭や石油の生産をやめ、安い海外産の石油や農作物などに頼ったことで、自国の工業や農業は空洞化していく。このグローバル化によって後進諸国の産業生産や農業生産が発展し、後進諸国の経済発展が進み、先進諸国はこうした国々から安い製品を輸入することで、莫大な利益をあげていった。

世界経済はドルを中心として動いている。豊かな国はアメリカとの貿易でドルを稼ぐことで、世界中から商品を購入できる。豊かな国とはこのドルを持っている国のことだ。アメリカが豊かであるのは(本来の豊かさは生産力の高さにあるはずだが)、実際にはそのGDP(国内総生産)を示すドルという貨幣量の多さにある。

これは自国でドルを発行するのだから当たり前のことだが、ドルで自由に海外から商品を購入でき世界中に投資できるので豊かなのだ。たとえ工業や農業を海外に頼っても、自国で発行したドルで購入できるので問題はない。他の先進国も黒字であればドルが豊富であり、海外からどんなものでも購入できるので豊かである。

しかし、先進国の経済は次第にものをつくることをやめ、海外に工場を移し、金融や商業に特化していく。それも世界の貿易通貨がドルであり、世界が平和であれば何ら問題ではない。いや、ドルを強制的に維持するためにIMF(国際通貨基金)や世界銀行、WTO(世界貿易機関)などを先進国が支配し、軍事力によって先進国優位の体系をつくっているかぎり問題はない。

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