インフレ加速の先に見える世界秩序の大変化 アメリカがウクライナ戦争で妥協できない理由

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しかし、いったんこの体系が崩壊したらどうなるであろうか。グローバリゼーションの結果、WTOによる世界市場の形成の結果、非西欧諸国の生産力は次第に上昇している。農業、工業などにおいて非西欧諸国の力は大きくなっている。これらの国がつくる部品がないと今ではどんなものも作れなくなっている。農作物、工業製品、燃料資源など、先進国は完全な依存状態である。

GDPのドルによる総額は、確かに先進国が多い。しかし実際の実体経済の面から見た農業や工業生産量は、非西欧諸国の方がもはや多いのだ。もっとはっきりいえば、グローバル化によって世界の分業化は進み、多くの商品を生産しているのは非西欧諸国ということになったのだ。

ウクライナ戦争と経済制裁という諸刃の剣

西欧諸国は非西欧諸国がグローバル体制に対して反抗しないように、軍事基地を世界中に置き、つねにパトロールを行い、サプライチェーンが乱れることがないように監視している。例えば部品の供給を怠り、債務を不履行すると途端に厳しい制裁を加える。これによって、成長しつつある非西欧諸国の経済は衰退したり破綻したりする。その意味で絶対的な権力者として西欧は今も世界を支配している。

とりわけ勃興する中国とロシアを中心としたBRICsなどがG7(主要7カ国)に楯突こうものなら経済制裁が加えられる。今回のロシアのウクライナ侵攻においても、経済制裁が次々とロシアに一方的に加えられた。19世紀以来、西欧諸国は世界の主人よろしく、アジア・アフリカ諸国が少しでも抵抗すると彼らに厳しい制裁を加えるか、そうでなければ軍事的な示威行為を行ってきた。冷戦崩壊以後、対抗勢力がなくなった今では、この制裁または示威行為は秩序維持のための必須の手段となっている。

しかし、この経済制裁は諸刃の剣でもある。たとえばSWIFT(スイフト、国際銀行間通信協会)でドル決済を停止させることは、IMF体制が堅持されている限り有効だ。とりわけ、ドル不足に悩む債務国に対しては有効である。しかし、そうした債務国グループ同士が連携して独自の通貨圏をつくれば、SWIFTが持つ効力はなくなる。それどころか、ドル体制をも揺らぎかねないのだ。

かつて旧ソ連・東欧圏はIMF体制の外で、「振替ルーブル」という制度を構築していた。これは、ドルではなく預金口座上のルーブルを使っての貿易決済であり、いわば旧ソ連・東欧版のIMF体制であった。ソ連東欧圏はこの体制を維持することで、西側に左右されない強力な経済体制を誇っていた。これがコメコン(経済相互援助会議)である。

現在、デジタル通貨が発展しつつある。デジタル通貨の制度化が進んでいるのは、中国やインドだ。先進諸国は遅れている。デジタル通貨制度を構築すれば、ドル体制は脆弱化する。そうでなくとも、2国間の通貨を使った決済制度を利用すれば、たとえば中国元とロシアのルーブルのようにドルはいらない。ドルが必要となるのは西側との貿易であり、西側が科学技術や生産力において秀でているという前提がなくなれば、ドルは必要ではなくなる。

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